しかし、その手法を一歩間違えれば消費者は無関心どころか嫌悪さえ抱くようになる。最近では、SNS上で批判を浴びたり、炎上したりする広告も相次いでおり、広告を通してどのように消費者とコミュニケーションをとっていくかは企業にとって重要な課題となっている。
そんな中、消費者の期待を裏切らないために「ダイバーシティ」を意識する企業が増えてきた。その動きは世界レベルで加速している。
世界三大広告祭の一つであるカンヌライオンズは2015年、性差別や偏見を打ち破るクリエイティブを表彰する「グラスライオン」部門を立ち上げた。また今年、平等性やダイバーシティを重んじるべく、表彰する作品の審査基準をアップデートした。
ダイバーシティは、消費者の信頼を勝ち取る「鍵」となり得るのだろうか。
長年広告業界に身を置き、「グラスライオン」の初代審査員長を務めた女性、シンディ・ギャロップ。2004年にアメリカで広告業界を代表する女性として評されたことから、「ニューヨークの女王」とも呼ばれる彼女に話を聞いた。
━━ダイバーシティの視点から、伝統あるカンヌライオンズのどのように評価しますか。
カンヌライオンズは随分長い間、男性中心的でした。平等やダイバーシティ、インクルージョンに対して、賞賛や保証をしてきませんでした。これからもカンヌライオンズが世界のクリエイティビティの中心でいるためにも、できるだけ早く変わらなければいけません。
しかし、ダイバーシティよりもセクハラの方が重要な課題です。なぜなら、セクハラが、女性リーダーたちの昇進を妨げ、女性を権力の座から遠のかせてしまうからです。これこそが最も大きな障壁で、私はカンヌライオンズがセクハラに対して、強い姿勢をみせることを望んでいます。
━━カンヌライオンズが審査基準のアップデートを発表しました。平等な表現を讃え、不平等に対して反対する姿勢をみせるように明記しました。これについてどう思われますか。
私は、“ステレオタイプな表現”を取り締まるガイドラインを見たいわけではありません。
平等性を実現することは、広告を作る側にマイノリティ(ジェンダー、人種、年齢)をより配慮してもらうということではないからです。ステレオタイプを覆すには、マイノリティを作り手として採用し、快く受け入れ、昇格させることが必要です。
カンヌライオンズには、そうした流れが起こるように、積極的に業界を後押しして欲しいと思っています。また同時に、審査員のダイバーシティを意識するべきだと思います。