「イギリス料理は不味くない」 チェーン店のパブで感じた違和感の真実


日本人は、「フィッシュ&チップス」オンリー的な思い込みで、ポテトの量にげんなりしがちだけれど、「フィッシュ&チップス」だって千差万別、フライドポテトがとびきり美味しいパブもあれば、極上の旨味のあるフッシュフライが出てくることもある。

パブで味わえるイギリス家庭料理は、ローストされたお肉と野菜にたっぷりのグレイビーソースをかけて食べるサンデーローストやシェパーズ・パイ、ブリティッシュ・パイをはじめ、マッシュポテトも絶品だ。



「日本で同じようにつくってもこの美味しさにならないのだが」と訊ねたら、イギリスでは料理に合わせて何種類ものジャガイモが栽培されているのだそうだ。「イギリス人にとってのジャガイモは、日本人のお米みたいなものね」とはイギリス在住30年の知人の言葉だ。日本人が料理に合わせてお米の品種を選択するのと同じことが、イギリス人のジャガイモにも言えるのだ。

もちろん、すべてのパブで美味しい料理が食べられる訳ではない。こういった美味しい料理を出すパブが一般的になったのには、1991年にガストロパブ(gastropub)、ないしガストロラウンジ(gastrolounge)として、パブのなかにレストランを入れるというコンセプトを打ち出した1軒のパブが出現したことがきっかけだったという。

当時は、伝統的なパブの良さを消し去る恐れがあると批判もされたようだが、結果的には若干衰退傾向にあったイギリスのパブ文化と外食の、双方を活性化させることとなったのだ。

私が美味しいと思ったパブは、ガストロパブの領域に入るとは思うが、パブのもうひとつの魅力は各地ならではの歴史や伝統を伝える古い看板や内装のユニークさにもあると思っている。

美味しいパブは、壁にかかっている古い写真や、肖像画、天井からぶら下がっているさまざまなキッチングッズなどが、実に個性的で魅力的だ。そして、そんな地元ならではのパブを大切にしているイギリス人って良いなと思っていた。もうひとつの現実を知るまでは。

全英で3100店舗のパブチェーン

それは、思いがけないかたちで私の前に現れた。今回、ロンドンの北東約160kmほど離れたNorwichという街にスタッフと一緒に出張することになった。その日は日曜日で、ロンドンから電車を乗り継いで約3時間弱。到着してお昼をと、駅を出て歩き始めたが、日曜日ということでほとんどの店が開いていなかった。

仕方なく、途中で1軒だけ開いていた外見はなかなか素敵な古いバブに入った。でも、1歩、中に入ったとき、なぜか妙な違和感があった。「えっ、なにこれ?」と思いつつ、メニューを手にしたとき、その違和感の理由に気づいた。
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文=古田菜穂子

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