さらに、昨年1月には、破壊的イノベーションをもたらすような新産業(Deep Tech)の創出を支援する官製投資ファンドを設立した。
これらに加えて、民営のインキュベーター施設、Station Fがある。
インターネット事業で大成功したザヴィエル・ニール氏が創業し、かつての駅を再活用している。2.5億ユーロを投資したそうだが、全長310mの大きな建物の中は静かで、各ブースはコンテナを活用している。入り口には日本の村上隆氏のフィギュアが飾られ、スタートアップとアートが融合しているような空気である。
官民が協力して進められているフランスの成長戦略だが、金融面で主役となっているのは政府系金融機関である。とくに、預金供託公庫とBpifrance(フランス投資金融公庫)が要だ。前者は日本でいう財政投融資、後者は日本政策金融公庫に近い。政府と役所が強力なフランスらしさが見え隠れする。
クレディアグリコルやソシエテ・ジェネラルなど民間も、ベンチャー投資やlate stageの育成には熱心だが、スタートアップやseed stageでは、政府系が気を吐いている。
実はドイツやEU全体としても、成長戦略に注力している。ドイツでは、第二次大戦後のマーシャルプランを母体にして設立されたドイツ復興金融公庫(KfW)がその中核で、ここでも政府の存在感が示されている。EUでは、欧州委員会と欧州投資銀行が中心だ。
さらに、EUの中では域内国同士の協力関係が見られる。とくにフランスBpiとドイツKfWは密な連携を取っている。
フランスでもドイツでもEUでも、くどいほど耳にした言葉が「エコシステム」。つまりおカネや設備、人材育成をばらばらに行うのではなく、これらが循環しながら発展していく支援が重要だ、という認識である。各国各機関で、「エコシステム」がほとんど呪文のように唱えられていた。
これは、日本の成長戦略についても大いに留意しておくべき点だと思う。とくに地方創生では、身近な「エコネットワーク」の確立が不可欠だ、と痛感する。はるか遠くの高い目標を立てるのも大切だが、同時に足元をしっかり見つめることを忘れてはならないのである。
「うぎゃっ」、ブローニュの森のほど近くで、OECDの建物を望見していた友人が悲鳴を上げた。景色に見とれながら、見事な「黄金」を両足で踏みつぶしていたのである。
川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。