──機械学習関連の企業に共通する文化ということですね。
思うに、IT業界が総じて秘密主義に見えるのは、働くエンジニアたちの控えめな態度に原因があるのではないでしょうか。エンジニアの多くは得てして内向的です。まだありもしないモノを大袈裟に喧伝したくなどないのです。これはヤンデックスでもそうでした。私たちも開発中の製品のローンチを予告したことはありません。なので、今後のラインアップについて聞かれても、常に「我が社は縁起をかつぐので、起きないかもしれないことについては話しません」と答えています。
なぜなら、私たちはいつも実験を繰り返しているからです。ヤンデックスの製品で成功したものも、じつは10ある実験で唯一生き残ったもので、残りの9つはその過程で死に絶えているわけです。そうしたこともあり、前もって発表したところで、うまくいかない可能性も十分に考えられます。だからこそ、熱心に実験を繰り返す人たちほど、成功が証明されたものだけを発表する傾向にあるのです。
──ヤンデックスをどのような会社だと定義していますか?
「テクノロジー・ドリブン」の企業ですね。我々はディープ・テクノロジーにもとづいた消費者向け製品を開発しています。最先端の高度な知識を“プロダクト”という形あるものに変えているのです。
──「テクノロジー」が出発点になっている、ということでしょうか。
すべて、テクノロジーが出発点になっています。じつは、今日の“奇跡”は奇跡のように見えますが、それはその仕組みやメカニズムがよくわからないほどの高い技術にもとづいているからです。自動翻訳にせよ、自動運転にせよ、いずれも数学理論とエンジニアリングから手掛けて作り上げたものにすぎません。現代の魔法はこうして創られているのです。
「インターネット検索と違って製造面でもスケールできる」とアルカディCEOは自動運転車の利点を指摘する 写真 = ヤンデックス
──IT業界やロシアでは広く知られる一方で、日本をはじめ、他国での存在感は希薄です。このタイミングで配車サービスや自動運転車で市場を拡大する理由とは?
私たちは地域ごとに適したテクノロジーを使って市場を広げようとしています。ここで重要なのは、ロシアではさまざまなプロダクトからなる完全なエコシステムを作り上げていることです。これは非常に役立ちます。すでに有力企業やエコシステムが存在する市場に参入し、ゼロから何かを立ち上げるのはあまりにもムダが多い。そこで、私たちがロシアで育てたオンラインとオフラインの製品が、新しい市場で製品をローンチする際に大きな力となるのです。それもより簡単で、より迅速にできます。だからこそ、我が社の核事業をロシアという市場に集中して投じている面もあります。