ニューヨークやロンドンなど、世界各国の大都市で豊かな運転経験を持つ、イスラエルのタクシー運転手たちはウンザリした様子でそう口を揃える。
車列を縫うように、バイクや自転車、電動キックボードが無軌道に走り抜けていく。われ先に、と割り込むクルマが交差点でつっかえ、業を煮やしたドライバーが下車して罵声を飛ばす。しかも街は目下、地下鉄とライトレールの工事中。渋滞する朝夕のラッシュ時と昼食時はまさにカオスだ。
そんな街を1台の自動運転車がひっそりと走っていることは、市民にもあまり知られていない。所有者は、1997年に創業にしたロシアの総合テクノロジー企業「Yandex(ヤンデックス)」。“ロシア版グーグル”の異名を取り、同国ではインターネット検索最大手として君臨している。
同社は、イスラエル運輸・道路安全省がテルアビブの一般道路・高速道路で開放した自動運転実験プログラムに現在、唯一参加を許されており、日夜決められたルートを走行している。トヨタ自動車のプリウスに、米ベロダイン社のライダー(LiDAR:光検出・測距)センサーなどを搭載し、緊急時のためにドライバーが運転席に座っていることも手伝い、その外見からグーグルマップのストリートビュー撮影車とよく間違われるという。だが、両側のドアには「ヤンデックス 自動運転車」の文字が。ヤンデックス社の技術の粋が詰まった、れっきとした自動運転車である。
「我々の準備はもう整っています」
同社の共同創業者兼CEO、アルカディ・ヴォロズ(55)は穏やかな笑みを浮かべながらそう自信を見せた。今回、世界的にも極めて異例となるヴォロズCEOとのインタビューが実現。白いYシャツにデニム姿のヴォロズCEOは「グーグルよりも先に創業したのに、未だに“ロシア版グーグル”と呼ばれている」と軽口を叩く一方で、自社の哲学や自動運転車の開発、教育について熱っぽく語った。以下、一問一答をお届けしたい。
──ロシアのインターネット検索最大手、“ロシアのグーグル”として知られていますが、近年はさまざまな事業に進出していますね。
むしろ、“ロシア版シリコンバレー”だと思っていますよ。実際、すべてに関わっています。ロシア国内ではオンラインとオフラインいずれの市場でエコシステムを構築していますから。自由競争の観点からは市場というのは面白いもので、多国籍企業に勝つ地元のプレーヤーもいます。私たちはその一つで、武器はテクノロジーです。創業当初から我々のビジネス基盤は、「機械学習」。それを検索エンジン、レコメンデーション・エンジン、行動変容技術、コンピュータ・ビジョンへ応用してきました。
一度、そうした技術を確立しさえすれば、あとは製品やサービスを立ち上げるのがより簡単になります。その結果、配車アプリ「Yandex Taxi(ヤンデックス ・タクシー)」「Yango(ヤンゴー)」に、音楽配信サービス「Yandex Music(ヤンデックス・ミュージック)」、コンテンツフィードの「Yandex Zen(ヤンデックス ・ゼン)」などが生まれました。