本多達也(以下、本多):私はいま、振動と光でろう者に音を伝える「Ontenna」を開発しています。主な用途は、ろう学校なので音が聞こえない学生に音やリズムなどを伝えるためのツールとして使われていますが、先日、浅井さんからお声掛けいただきパラ卓球とコラボをしました。
卓球台の裏に音を拾う装置を貼り付けOntennaを耳につけると、卓球玉が台を跳ねる「コン、コン」という音が振動になって伝わります。激しいラリーのときはその振動が早くなり、強く振動したら「いまスマッシュを打った」ことがわかる。これまでろう者は視覚でしかスポーツ観戦ができなかったので、振動を感じることで臨場感が高まり、新しいスポーツ観戦体験の創出を目指しています。
浅井:いまパラスポーツを観たことがあるひとは日本のたった1%とのデータがありますが、僕もパラ卓球の仕事をするようになって初めてパラスポーツを観ました。
成田緑夢(以下、成田):家族がオリンピック選手だらけで、僕もオリンピックを目指していたので、僕もかつては99%の側。パラスポーツは全く知らなかったです。ただ足を怪我した後に、パラ陸上の試合を観たことがありました。
オリンピックの場合は、トップ選手がゴールテープを切る瞬間、つまり金メダリストに対する声援が一番大きいんですよ。でもパラ陸上は違った。もちろんトップ選手にも声援は送られますが、会場の拍手が一番大きいのは、一周遅れ、二周遅れの選手がようやくゴールした瞬間。会場全体でその選手の努力を称えるんです。これこそがオリンピックにはない、パラリンピックの魅力だと思ったことを覚えています。
本多:私もパラ卓球とご一緒する前までパラスポーツは観たことがありませんでした。そもそも身近に障がい者がいないので少し遠い存在だった。
成田:僕がまだパラリンピックを観たことがなかったとき、すごく嫌な言い方をすると、パラリンピック=レベルが低いイメージを持っていました。けど自分がパラアスリートになって彼らと勝負をしてみると、当たり前ですが普通に強いなと(笑)。過去の自分が恥ずかしくなるくらいレベルが高くて、ますます「オリンピックとパラリンピックの差はまったくない」と思うようになりました。
オリンピックもパラリンピックも同じ、スポーツの最高峰を決める大会。両者における価値の違いは全く無いんです。高くも低くもない、違うのは競技人口の大きさだけ。
しかしいまは、メディアの報道をはじめ世間一般的にオリンピックのほうが価値が高い大会だと思われていることは紛れもない事実でしょう。なぜそうなってしまったのか、これはみんなで考えていかなければいけないことだと思います。