彼女の辞任により、英国の政治は空白状態に突入した。保守党内では次の党首の座を巡る戦いが繰り広げられている。5万5000人以上の来場者が見込まれるロンドン・テック・ウィークは、欧州最大のテック分野の祭典だ。会場でメイ首相の姿を目にした聴衆の多くは、彼女の突然の来場に驚いた。
ブレグジットを巡る混乱の中で、彼女の政権のテック業界に対する態度は「煮え切らないものだった」と、来場者の一人は話した。
集まった聴衆を前にメイ首相は「私たちは共に力を合わせ、世界をより良い場所に導く機会を与えられています。英国政府は常にみなさんの側にあります」と語りかけたが、反応は冷ややかだった。
彼女と英国のテック業界との確執は、2010年にさかのぼる。内務大臣時代の彼女は移民の抑制策をとり、ハイスキルな移民の受け入れに制限を課したことで不評を買った。
メイの政策は前首相のデイビッド・キャメロンのビジネス寄りのスタンスとは、真逆のものだった。キャメロン政権は常にテック業界のリーダーらにドアを開いていた。
メイが進めた移民政策は多くの外国人起業家らを落胆させ、ビザの問題で英国を離れる人たちも増え、優秀なエンジニアの雇用も難しくなった。その状況は英国のEU離脱決定によりさらに悪化した。
ただし、今回のロンドン・テック・ウィークでは、前向きなニュースももたらされた。
英国では過去1年で企業価値10億ドル以上のユニコーン企業が13社、新たに生まれ、合計のユニコーンの数は72社になった。Dealroomがまとめた最新データでも、2019年前半に英国のスタートアップが、VCから受けた出資額は過去最高を記録した。
メイは英国政府が今後、1億5300万ポンド(約210億円)を量子コンピュータ分野に投資する計画であることを明かした。さらに、民間からも約2億ポンドが量子コンピュータ分野に注がれ、新薬の開発などを加速させるという。
ブレグジットを控えた英国が政治的麻痺状態にある中で、英国のスタートアップ領域への投資額は、他の欧州諸国を大きく上回っている。ここで気になるのは、新たな英国の首相が、テック業界にとって友好的な人物になるかどうかだ。
壇上を去るメイの姿を横目に、聴衆の一人はこう話した。「次のリーダーが、彼女の失策を挽回してくれる人だったらいいな」