ビジネス

2019.06.20

高速PDCAで実現する、セブン&アイの「察するデジタル戦略」とは?

(左から)ネットイヤーグループ 石黒不二代、セブン&アイ・ホールディングス 清水 健、ネットイヤーグループ 須川敦史


高速PDCAで、“察するデジタル”の実現へ

石黒:セブンさんは日々の食事に欠かせないオリジナル商品をたくさん作っていらっしゃっているからこそ、“生きるデータ”が取れるようになっていますよね。

清水:日常で接しているので、PDCAのサイクルをものすごい早く回せるんですね。単純に売上だけを見ていても、“これはおいしいから売れているけど、これはまずいから売れていない”といったことが、1日単位、時間単位でわかるので、“それならもっと味をこう変えよう”と即座に対応することができます。

通常、メーカーが月単位や年単位でPDCAを回しているところを、我々は日時単位で回せるので、ちゃんとしたスパイラルを生むことができていると思います。

これまでは、そうやって“おいしいものを作りましょう”ということをずっとやってきて、それはそれで成果がありました。ただ、今のように生活者のライフスタイルや趣味・嗜好が多様化してくると、“おいしい”の定義も人によって違っているかもしれない。だから、“日本人全員にとってのおいしい”を追求すると同時に、“この人がおいしいと感じるもの”を正確に把握して、個人レベルでもPDCAを回していく必要があるのだろうと。その中で、“個”を特定した状態で取ったデータを、きちんと活用していくことが重要になっているのだと考えています。

須川
:具体的に、どうやって“個”に対応したPDCAを回していくのですか?

清水:まだできていないのですが、オーダーメイドはやるべきだと考えています。個を特定して、趣味嗜好を深く把握することができるようになれば、リアル店舗にそのデータを跳ね返して、店舗ごとに扱う商品を変えることだって出来るじゃないですか。ファッション分野では当たり前になりつつあるオーダーメイド的なサービスを、日常の食の分野でも検討できるかもしれません。

須川:メーカーさんとも強い提携をしているセブンさんだからこそ、できそうな話ですね。

清水:あとは、今年の6月に複数業界のリーディングカンパニーと立ち上げた「セブン&アイ・データラボ」では、クレジットカード会社さんとの取り組みを始めています。我々の感覚としては、世帯所得が高い地域とセブン-イレブンの利用金額には相関が見られると思っていたのですが、実はそう単純なものでもなさそうだと・・・。



分析の結果、もし世帯所得によって人気の商品が異なることが見えてきたら、面白いなと思います。我々が勝手に決め付けるのではなく、実際にそこに住むお客様が求めている商品を厚くしようという話ですから、我々にとってもお客様にとってもメリットがあると思うんです。

石黒:これまで“個”が特定されていないデータしか取れなかった中では、“客単価×客数×来店日数”の考え方でした。それぞれの数字を上げるための施策を考えるという小売の王道でのやり方は、それはそれで正しかったわけですが、これからはそれだけでは足りないということですよね。

清水:そうです。“個”を無視して1円でも売上を上げようという発想は、我々の目線でしかありませんから。これからはもっときめ細やかにやっていくべきだろうと。例えば、スマートホームに取り組む企業と連携して、歯磨き粉や洗剤などの消耗品がなくなるタイミングを察知して、注文しなくても絶妙なタイミングでお宅にお届けするサービスができないかと考えています。これを私は“察するデジタル”と呼んでいるのですが。

石黒:“察するデジタル”、いいですね。Webのリターゲティングやリマーケティングを拒む声は少なからずありますが、私個人としては重宝しているんですね。「あぁ、そうそう。これ買い忘れていたんだった」と思い出させてくれるので。

清水:本当に欲しいものであれば、そうですよね。だからと言って、単純な定期購入にしてしまうと、「今月は一週間、出張でいなかったから、まだいっぱい残っているのに」という人にまで届いてしまうことになる。本当に必要なタイミングを見極められるようになると、一番いいんですけどね。
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文=石黒不二代

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