ビジネス

2019.06.13

国ごとに異なる、スターバックス「デジタル戦略」の裏側

(左から)ネットイヤーグループ 須川敦史、スターバックス コーヒー ジャパン濱野 努、ネットイヤーグループ 石黒不二代


国ごとに異なるデジタル施策

石黒:「STARBUCKS REWARDS」はアメリカでは随分と前から始まっていたんですよね?

濱野:はい。アメリカでは7年くらい前からスタートしていて、今は1530万人ほど会員がいます。先日アメリカの調査会社eMarketerから発表された調査結果によると、アメリカで最も利用されたモバイル決済は、Apple PayやGoogle Payではなく、スターバックスだったという発表がありましたが、それほどアメリカでは「STARBUCKS REWARDS」や「モバイルオーダー&ペイ」のサービスが売上をドライブしています。

「モバイルオーダー&ペイ」は、スマートフォンのアプリケーションで事前に注文と決済をして、お店でピックアップするだけというサービスで、現在アメリカを含む5カ国でスタートしています。

石黒:「モバイルオーダー&ペイ」は今後、世界共通で広がっていくものでしょうか?

濱野:一概には言えませんが、中国ではアリババと組んで、150拠点あるアリババのスーパーマーケットから30分以内にスターバックスの商品を届けるサービスをスタートさせています。中国ではお客様のもとに届けるデリバリーにフォーカスしていますね。

韓国では、車のナンバーをアプリに登録しておいて、モバイルオーダーをしてからドライブスルーレーンを通ると、カメラがナンバーを認識して、決済や商品のお渡しをスムーズにできる取り組みが始まっています。アメリカではボイスレコグニション(音声認識)でオーダーできるサービスも開始しているので、将来的には車を運転しながら、「あそこのスターバックスに「ダブルトールラテを注文して」と言ってからお店に行くと、ナンバーが自動的に認識されて、商品をすぐに受け取ることができる、というスタイルが当たり前な世界になるのかもしれません。

石黒:すごいですね。スターバックスコーヒー ジャパンとしては、そうしたグローバルの流れに追随されるんですか?

濱野:いえ、グローバル企業ではありますが、日本のお客様とマーケットは、海外のそれらとはまったく異なりますから、海外のサービスをそのままポンッと日本に持ってくるわけではありません。日本に合わせた形で入れていくことが重要だと考えています。

石黒:最後に、今後デジタルトランスフォーメーションを進めていく企業の方に向けて、メッセージをお願いします。

濱野:デジタルの文脈って、目的よりも手段としてデジタルを入れてしまうことが非常に多いですよね。“何かやらないと遅れてしまうからデジタルをやりたい”みたいな。そのように手段が目的化してしまうと失敗すると思うので、“お客様の顧客体験の価値を高める”といったように、“何かのためにデジタルを使う”という視点に切り替えないと、なかなかうまくデジタルを活用できないのではないかと思っています。

スターバックスに習え! 石黒&須川のワンポイントアドバイス!

・デジタルトランスフォーメーションは1日にしてならず。むしろ、デジタルが始まる前からの顧客体験を大切にする文化が重要。

・いわゆるリワードプログラムは、価格を下げるためのプログラムではない。ブランドロイヤリティーをあげる設計にする。

・国ごとに文化・習慣が違う。カスタマー重視のデジタル戦略を作る。

・デジタルは、往々にして手段が目的になりがち。顧客体験の価値を高めるデジタル戦略をする。


濵野努◎スターバックスコーヒージャパン株式会社デジタル戦略本部本部長。1993年に日本マイクロソフトに入社し研究開発本部にて開発言語の日本語化を担当。その後、2003年にマーケティング部門に異動し、Microsoft.com/japanのWebマスターなどを経て、デジタル マーケティングを統括する部門の責任者となる。2014年よりチューリッヒ生命マーケティング コミュニケーション部長として、マーケティング、PR、Web、CSR などを担当。2017年2月よりスターバックス コーヒー ジャパン デジタル戦略本部 本部長

文=石黒不二代

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