ビジネス

2019.06.13

国ごとに異なる、スターバックス「デジタル戦略」の裏側

(左から)ネットイヤーグループ 須川敦史、スターバックス コーヒー ジャパン濱野 努、ネットイヤーグループ 石黒不二代


顧客エンゲージメントを高めるために

須川:大量に広告を投下してクーポンで惹きつけたとしても、エンゲージメントがなければ、良い会員制度にはなりませんよね。

濱野:そうなんです。一過性のモチベーションで終わってしまったら、意味がありません。それであれば、時間がかかったとしてもよりお客様とのコネクションが深められるよう地道に積み重ねながら、意味のある良いデータを集めていくことが、とても大事なことだと思っています。

石黒:スターバックスさんは、デジタルが始まる前から、もともと顧客体験をすごく大切にしていらっしゃいますよね。

濱野:はい。スターバックスでは「Our Mission & Values」を核に、ひとりのお客様、一杯のコーヒーを大切にする文化が根付いていて、本社のパートナー(従業員)から店舗のアルバイトのパートナーまで、それをどう体現しようかと日々考えながら仕事をしています。お客様に“1日をより豊かに過ごしていただくために、何ができるのか”という発想で、お客様のニーズを察することを大切にしているので、その姿勢はデジタルでも変わらずに、店舗でのコミュニケーションをできるだけサポートできるようにしていきたいですし、デジタルを通してもスターバックスだからこその体験を提供したいと心がけています。

石黒:だからこそ、接客マニュアルも作っていらっしゃらないんですね。

濱野:先日も4人のチームで店舗の接客力を競う社内コンテスト「We Connect Cup」というイベントを開催したのですが、本当にみんなすごいんですよ。あらかじめ設定されたシナリオに沿って、お客様役のパートナーが店舗のセットを訪れて、それに対する接客を見るんです。お客様一人ひとりに声をかけつつも、手は動いているし、席を探しているお客様を見つけたら、すぐに駆け寄るし。ありとあらゆるトラップが仕掛けられている中でも、すべてのお客様とコミュニケーションを取りながらも、素早くオペレーションをこなしていく姿を見て、これこそがスターバックスの持っている力の源泉だと改めて痛感しました。

須川:お客さまとの信頼関係があるので、その積み重ねですよね!

エンゲージメント施策とデータの関係

石黒:お客様とのエンゲージメントの強化のために、どんなデータをどう活用されていますか?

濱野:リワードプログラムを開始してから、お客様の個々の単位で、どんな方が、どこのお店で何を購入されたのか、といったデータがすべて取れるようになりましたので、ようやくデータ分析のスタートラインに立てたかなというところですね。

石黒:データ分析で、どんなことが見えてきましたか?

濱野:例えば、「毎日ドリップコーヒーを買いに来る方」「エスプレッソ系のビバレッジを買いに来る方」「フラペチーノを中心に買いに来る方」「ドリンクとフードを必ずペアで購入される方」「ドリンクをカスタマイズされる方」「紅茶などのその他のビバレッジを購入される方」といった形で、6つのクラスターに分けることができました。



さらにそこから、年間25回以上購入されている“アクティブ”の方と、それ以外の“ラプスド”と呼んでいるノンアクティブな方に分けながら、データ分析を始めています。

いかに“ラプスド”のお客様により多くスターバックスに来ていただくか考え、そしてロイヤルのお客様には、よりきめ細やかなコミュニケーションによってリテンションを図ることで、さらにエンゲージを高めていけたらと考えています。

ソーシャルメディアが果たす店舗への誘導

須川:先程ソーシャルメディアが大きな影響力を持っているというお話がありましたが、ツイッターやインスタグラムを見ている方と、実際にお店で購入される方との相関性や因果関係は見えているんですか?

濱野:ようやく分析をスタートさせたところで、まだあまりデータの精度がよくないんですけど、インスタグラムよりはツイッターのほうがインプレッションは高いですね。4月に出した「ストロベリーベリーマッチ フラペチーノ」とか「ピーチ ピンク フルーツ フラペチーノ」といった若者層をターゲットにした商品は、発売の一週間前に事前告知をすると、大きな反響がありました。

石黒:ちなみにアメリカと比較すると、ソーシャルメディアの影響力に違いはあるんですか?

濱野:日本人は流行りものが好きという国民性もあって、ソーシャルメディアにおける反響は、日本が大きいです。アメリカでも期間限定のフラペチーノ®︎を発売すると多くのお客様はいらっしゃいますが、ちょっと傾向は違っていて。もともとアメリカは定番のドリップコーヒーやエスプレッソ ドリンクを飲む方が多いんですね。購入スタイルも日本とは異なり、通勤途中に車でスターバックスに立ち寄って、テイクアウトで購入されるケースが一番多いので、朝7時から9時くらいまでの間に、お客様が集中する傾向があります。
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文=石黒不二代

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