名称の変化、問われない表現方法
エントリー後、Seemはグランプリを含む2部門4カテゴリーで受賞した。
なぜ世界最大級の広告祭にも関わらず、広告をほとんどうたなかったSeemがグランプリを獲ったのか。それはカンヌライオンズの歴史に刻まれる大きな変更が要因としてあげられる。
それまでカンヌライオンズは「カンヌ国際広告祭」として知られていた。しかし、2011年にその名を「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」に変えた。「広告」という文字がタイトルから消えたのだ。
カンヌライオンズ運営会社のテリー・サベージ会長は、『宣伝会議』のインタビューで「『広告』の枠で語りきれなくなった現在の状況を反映している」と述べている。(「カンヌ、日本語名称も変更 『広告』から『クリエイティビティ』へ」より)
入澤は2017年の受賞をこう分析している。
「広告やプロダクト自体というよりも、どれだけ世の中にインパクトを与えたのかが評価基準になっていると思う。その方法がコミュニケーションなのか、プロダクトなのか、広告なのか、という違いでしかないという気がしました。他の案件とかを見ていてもそう思います」
「世の中へのインパクトをはかる指標として、露出数、どれだけ話題になったのかが重要と言われてきました。しかし、Seemはそこまで広告をうっていないし、露出もされていなかった。ただ、男性の行動や意識が変わって、行動変容できるというところが評価されたと思います」
今まで商品やサービスを「売る」ための広告が大事にされた。どれだけ消費者に買ってもらえるかが勝負だった。しかし、そのクリエイティビティを「消費行動」ではなく、社会を良い方向に導く「行動変容」につなげていく作品を評価するようにカンヌライオンズは変化していったのかもしれない。
ジェンダーギャップ、環境問題、人種差別、貧困や格差など無数に存在する社会課題をいかにクリエイティブの力で解決していくか。本質的な動きが問われるようになった。
入澤に開発の背景を聞くと、さらに納得感を増した。
「Seemを作ったのも、妊活のジェンダーギャップを減らしたい思いが一番にありました。このサービスを作りたいからではなく、手段としてSeemを作っただけです。極端に言えば、男性側がすぐに妊活をして、病院に積極的に足を運べばSeemはありませんでした。それはそれでいいんです。現状の課題を解決するためにこれが一番いいと思ったから作りました」
たくさんの人に売れる、メディアで取り上げられる、シェアされる、商品やサービスの評価軸はたくさんある。しかし、開発の時点ですでに課題と解決を見据えたSeemのようなプロダクトが増えれば、そしてそれらがもっと評価されれば、世界はさらにより良いものになっていくだろう。Seemの受賞は、未来への希望を意味する。