今年もその季節がやって来た。Forbes JAPAN編集部はクリエイティブ業界の最前線から現地レポートを発信する。
歴史と権威あるカンヌライオンズで2017年、グランプリを含む数々の賞を受賞し世界が絶賛した日本のプロダクトをご存知だろうか。その知られざる受賞作品とは、スマホで手軽に精子の運動率などをチェックできる、男性用の精子チェックアプリ「Seem」。妊活に消極的な男性のために作られたリクルートの新規事業だ。
Seemを開発したリクルートの入澤諒に取材した。
広告祭として知られる祭典で当時全く広告をうたなかったSeemはなぜ評価されたのか。そして、Seemは今年再びカンヌライオンズに挑戦するという。その理由とは…。
そもそもなぜカンヌライオンズにエントリーしたのか
2017年初めてSeemがエントリーしたとき、カンヌの地に入澤の姿はなかった。
「2016年の11月にSeemをローンチして、半年しか経っていませんでした。賞をとるのが難しいといわれるカンヌライオンズに事業開発者として会場に実際に行く優先度は正直低かったです」
それでも作品をエントリーしたのは、ブランドの認知拡大をしたかったからだった。当時、男性向けの不妊チェックアプリのようなサービスは世界でも少なかった。不妊は女性と紐づけて語られることが多く、妊活アプリも圧倒的に女性用の方が多かった。そんな小さいマーケットの中で自分たちのやっていることが世界の舞台で本当に受け入れられるのかどうかを知りたかった。
当時ローンチしたばかりでほとんど広告をうっていなかったSeemだが、急遽カンヌライオンズにエントリーするための動画を作成した。
The Family Wayと名付けられた動画は、Seemをきっかけに子どもを授かったカップルのリアルな声を紹介している。
「Seemをきっかけに医療機関を受診して夫の無精子症がわかり、不妊治療に進んで子どもができた例を入れました。実際、一般的な治療をした人と比べると2年くらい妊活期間を短縮できて、お金も数百万円くらい節約できました」
世界保健機関の調査によると、不妊の原因の半分は男性だ。しかし動画にも表現されている通り、妊活・不妊治療のアクションを積極的に起こす男性は女性と比べて少ないという現実がある。そこでスマホで簡単に精子の運動率などを測定できるキットを使い、男性が主体となって病院に行くきっかけを与えたのがSeemだった。
Seemがカンヌライオンズで受賞したことにより、世界的に「不妊は女性にばかり問題がある」とされてきた現実をあぶり出す結果となった。Seemの受賞により、男性不妊という問題をクリエイティブなプロダクトで世界に知らしめることになったのだった。