「定年」が「退職」でなくなる時代、私たちはいつまで働くのか

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アメリカには「雇用における年齢差別禁止法」(The Age Discrimination in Employment Act of 1967)があり、40歳以上の労働者を対象に、年齢を理由に企業は従業員の採用・昇進などの差別や解雇を行うことができない。

加齢状況は個人差も大きく、「働く意欲と能力」のある人は、年齢にかかわらず働くことができる雇用環境の整備が必要だ。特に、本格的な人口減少時代を迎える日本では、労働力人口の確保が大きな社会的課題であり、今後の定年制の是非についても検討する必要があるだろう。

年齢の定めのない、新たな仕事への再出発

内閣府『平成29年版高齢社会白書』によると、現在仕事をしている高齢者の約8割が高齢期も高い就業意欲を示しており、『働けるうちはいつまでも働きたい』と回答した人は4割以上に上る。その背景には誰もが長寿時代に従来の60歳定年のもと、老後を年金だけで不自由なく暮らせるとは思っていないことがあるだろう。

一方、高齢期の就業は、収入を得ながらも仕事のやりがいや体力に見合っているかなど、若い頃とは異なる働き方が志向されている。

高齢者の就労促進は、社会全体にとって社会保障給付費の削減やその原資の確保につながるといったマクロ経済的メリットがある。さらには、高齢者自身の人生に好ましい影響を与え、高齢化が進展する今日の意義はますます大きくなっている。

「定年」とはこれまでの雇用契約の解除であって、社会からの退出を意味するものではない。一度きりの人生を充実させるためにも、年齢にかかわらず、自らの能力を社会のなかで活かし続けられる「生涯現役社会」の実現が重要ではないだろうか。

経済界からも終身雇用制見直しの声が高まっている。それは安定雇用の安易な放棄ではなく、人生100年時代の企業と従業員の新たな雇用関係を模索するものだ。企業にとって生産性の向上はグローバル化時代の事業の持続可能性を高める一方、長寿時代を生きる人にとっては幸せな働き方の実現に寄与するだろう。

「生涯現役社会」においては、多くの人が「定年」が「退職」を意味するのではなく、年齢の定めのない新たな仕事への再出発になろう。政府・企業には、企業内での定年や雇用の延長ではなく、定年後に個人が自らの能力を十分に活かせるような「雇われない」働き方が安心してできる就業環境の整備が求められる。

連載:人生100年時代のライフマネジメント
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文=土堤内昭雄

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