「定年」が「退職」でなくなる時代、私たちはいつまで働くのか

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60歳が近づくにつれて、「いつまで働くのか」という問いが急速に現実味を帯びてくる人も多い。やはり「退職」のひとつの目安は年金受給の開始時期だろう。ただ、日本の今後の社会保障制度の維持や一定の経済成長を達成するためには、一層の労働力人口の確保が求められる。わが国は超高齢社会を迎えるなかで高齢期の就業率を高め、年金受給年齢を超えても働く高年齢者を増やしていかざるを得ないのである。

「退職時期」を選ぶ時代が来る

一方、働く主体である個人からみても、老後の経済基盤を確保するためには高齢期になっても働くことを迫られる人が多いのも確かだ。しかし、自らの健康状態や能力などを考えると、誰もがいつまでも働けるわけではない。また、仕事から解放されて退職後の人生を楽しむためには、どこかで仕事の区切りをつける必要がある。もちろん働き続けることが、経済的な理由だけでなく、社会参加や生きがいづくりにつながり、健康維持などに役立つことも間違いない。

日本の高齢者の就業率は、諸外国に比べると高い。総務省『統計からみた我が国の高齢者』(平成30年9月16日)によると、60~64歳では男性79.1%、女性53.6%、65~69歳では男性54.8%、女性34.4%に上る。

ただ、諸外国では退職後の生活を楽しむことこそ人生の最大目標と考える人も多い。日本では現役時代から多様な人生の楽しみ方の経験が乏しいために、老後も消極的に仕事を選択しているとしたら、それはとても残念なことだ。

「定年」と「退職」がセットにならない

政府の未来投資会議は、希望する高齢者がより長く働けるように企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を表明している。働く高齢者を増やすことで人手不足を解消し、年金など社会保障制度の安定を図る考えだ。

これまでも2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用延長を企業に義務付けており、定年を65歳まで延ばす企業も増えつつある。今後は「生涯現役社会」を目標に、さらに定年を延長する動きも出てこよう。

「定年」とは、『官庁や企業などで退官・退職する決まりになっている一定の年齢』(新明解国語辞典)とある。一般的には「定年退職」という言葉が使われることが多い。その理由は、これまで多くの人が終身雇用制で長く同じ企業で働き、「定年」を迎えることはすなわち「退職」を意味したからだろう。

しかし、今日では定年後も嘱託で雇用を継続したり、新たに個人事業主になって働いたりする人も増えており、必ずしも「定年」=「退職」とは限らないのである。
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文=土堤内昭雄

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