そこから見えたのは、個人の偏愛や嗜好性が際立つ「私が主役」の世界だった。テクノロジーによって新しい働き方を実現する未来を先取りし、誰もが主役になれる世界。今、新しい旅が始まる。
CASE 2 Freedom × LeapIN
Freelancing in Americaの2017年の調査結果によると、27年までにアメリカの職業で最も多くを占めるのは、通常の「雇用」スタイルではなくフリーランスになるという。たった8年後に起こりうる未来の話だ。しかしエストニアにいると「そんな未来を全く違和感なく受け入れることができる」とLeapIN CEOアラン・マーティンソンは語る。
エストニアの電子居住制度「e-Residency」に追随する形で、働く場所に縛られずに世界中のデジタルノマドを支えるサービスを展開するLeapIN。国によって異なる税務上の計算や申請の煩わしさを一手に引き受け、法人設立や銀行口座開設、会計処理などを支援する、15年創業のスタートアップだ。
アランはこれまでテクノロジーやメディア業界など10以上の企業経営に携わり、その手腕を買われ、18年にLeapINのCEOとして迎えられた。 「働くことはもっと自立的であるべき」という信念のもと設立され、現在、日本を含む100近い国から、1400人を超える顧客を集める。
世界を舞台に活躍する働き手が最も大切にする価値観は何か。アランによると、LeapINの顧客リストに名を連ねる人々の答えは「自由」だという。
それは、時間的、物質的な自由について言及しているのではない。何度も彼自身が取材中に口にした言葉、「Freedom of choice」、つまり、「選択の自由」という権利のことだ。まさに、エストニアが独立への長い渇望の歴史の中で勝ち取った、国家にとっても国民にとっても最重要の特権でもある。
LeapIN社内でも、「自由」は最も大切なコモンバリューのひとつだ。アラン自身、これまで一人の働き手としても、経営者としても、働き方を厳しく制限されたりしたことはなかった。なぜなら、個人のモチベーションは、「自由」という包括的概念の上に成り立っているものだからだ。
それゆえ、時間的な拘束はもちろん、規則なども設けることはしない。平等を証明し、それを提供するフラットな文化をCEO自ら率先してつくる。
アランは自らのCEOの仕事を「サービス・プロバイダー」と称する。人に指示することがCEOの仕事ではない。スタッフたちにミッションを与え、必要な情報や環境を提供し、それが機能しているかを確認する。これがリーダーの役割だと説く。
「あなたが死ぬ瞬間、あと数百万ユーロ、銀行口座に入っていたらと思いますか? お金は幸せに直結しないんです。もちろん幸せで自由でありながら、お金を稼ぐことは大切ですし、私たちのサービスによって両者のバランスを保つことはできます。しかし、あなたや大切な人が健やかであることや経済的に困窮していないことなど、人生にとって基本的な側面が整った時、最も重要なのは自由です。旅をしたり、仕事を変えたり、自らが望んだ形で選択できる自由が幸せに繋がるのです」
設立から4年経ったいまも、LeapINでは3カ月ごとに顧客に「あなたは今、幸せですか」と問い続けている。彼らは皆、「YES」と返してくれる。「とても幸せです」と。