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2019.06.10

三菱重工が赤字のボンバルディア「CRJ」買収を急ぐ理由

三菱重工取締役会長 宮永俊一(Photo by Chesnot/Getty Images)

カナダのボンバルディアは6月5日、リージョナルジェット機「CRJ」の売却について三菱重工と交渉中であることを明らかにした。三菱重工は、航空機部品のサプライヤーから航空機メーカーへの転換に苦戦しており、赤字のCRJを買収してでも、同社が持つ豊富な整備拠点を手に入れることが狙いだと思われる。

三菱重工は当初、ツインエンジンのリージョナルジェット機「MRJ」を2013年にANAに引き渡す予定だった。しかし、この計画は大幅に遅れ、90席級の機種を2020年に納入することを目指している。

Teal Group で航空宇宙業界のアナリストを務めるRichard Aboulafiaは、「三菱重工は、航空機の整備の経験が乏しく、インフラも整っていない」と述べ、同社が競合のCRJを買収することで、課題である製品のサポートと保守を充実させることができると指摘した。

今回の買収については、米国の航空専門メディア「The Air Current」が最初に報じた。モントリオールに本拠を置くボンバルディアは、経営不振に陥っていた航空機メーカーのカナディア社をカナダ政府から買収し、航空機事業に参入した。

1989年には、カナディアが開発したビジネスジェット機「チャレンジャー」を改良した50席の航空機「CRJ」をリリースした。当時はジェット燃料が安く、米国では短距離路線でプロペラ機からCRJに切り替える航空会社が相次いだ。ボンバルディアはCRJを1950機販売したが、2000年代に入ると石油価格の高騰や、航空会社の再編による路線の削減により、需要は低迷した。

CRJの受注残は、3月31日時点で51機となっており、2020年までに納入される見込みだ。ボンバルディアは最近、CRJの客室デザインを刷新したが、70年代に開発されたゼネラル・エレクトリック製のエンジンは燃費効率が悪く、新型の部品に交換されるかは不明だ。

鍵となる「スコープクローズ」条項

需要が低迷しながらも、CRJが売れ続けてきた背景には、大手航空会社とパイロット組合との労使協定に盛り込まれた「スコープクローズ」と呼ばれる条項の存在がある。この条項により、座席数76席と最大離陸重量8万6000ポンド(39トン)を超えるリージョナルジェットは運航が認められないことになっている。

三菱重工は、MRJの運行が開始する頃にはスコープクローズが緩和されると予測し、90席の機種を開発したが読みが外れ、現状では米国で運行することはできない。エンブラエルも同じ過ちを犯し、最新型機「E2」は基準を超過している。三菱重工は、70席の機種も開発中だが、設計変更のため納入は2023年になる見込みだ。

ユナイテッド航空とデルタ航空のパイロットは、現在新たな契約を交渉中で、サウスウェスト航空は2020年に合意する予定だが、スコープクローズが緩和されるかは不明だ。

三菱重工がCRJを傘下に収めた場合、スコープクローズの有無に関わらず、不採算なCRJを継続するかは不明だ。Aboulafiaによると、受注残を処理した後に事業を廃止する可能性があるという。三菱重工がCRJを買収するメリットとしては、整備拠点を手に入れられることに加え、ボンバルディアの熟練エンジニアを獲得し、MRJの開発や複雑な認可プロセスに従事させられる点が挙げられる。

ボンバルディアは、三菱重工がボンバルディアの元従業員から機密情報を入手したとして、昨年10月に同社を提訴していた。ボンバルディアは、もともとスノーモービルを製造していたが、買収を繰り返して1970年代には鉄道車両の製造に、1980年代には航空機の製造に参入した。しかし、2010年代に入るとエアバスやボーイングに対抗するため、座席数100-130席級の「Cシリーズ」を開発したことで経営が傾き、倒産の危機に瀕していた。
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編集=上田裕資

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