とはいえ、ビーンもルーノウも、フロントの人間である。つまり会社の人間だ。あくまで大局的な球団戦略を判断し、ビジョンを示し、それを現場の監督に伝えるのが仕事だが、レイズのエリックマンは、実際にユニフォームを着て、現場に毎日立つコーチだ。
ここに、常に「革新的」と伝えられるレイズの球団カラーがよく表れている。いまでは常識になっている、「シフト守備」(その打者の打球方向の過去のデータから極端に守備陣を右、または左に寄せる)も、レイズがそのパイオニアだ。
ユニフォームを着ている意味
レイズ球団事務所のチャイム・ブルーム上級副社長は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに答えて、「エリックマンが外部の人間か、それとも身内であるかが選手には大きい」と話す。「なぜかと言えば、成功の鍵は、結局、選手にチームの一員として受けいれられるかどうかだから。そこへくると、エリックマンはユニフォームを着ている」と。
レイズのキャッシュ監督も、「エリックマンとベンチコーチと3人で新しい守備体系の開発を研究中だ」と話す。一例としては、エリックマンが現場にいるので、彼がそれぞれの外野手がフライボールを捕球するときにどのような動き方をするかを見て、それを分析に加えて、一段階上のシフト守備を編み出し、少しでも多く敵のヒットをアウトにしようと試みている。
さらに、WSJは、今後、他の全てのチームも一斉にレイズの動きに追随するだろうと予測している。そして、初めて野球のユニフォームを着て、現場に入り、選手と一体化してきたエリックマンの、パイオニアとしての功績も讃えている。春のキャンプのときには、スエットシャツでもよかったところを、はじめからユニフォームを着ることに拘ったところに、エリックマンが選手から得ているリスペクトがあったようだ。
野球の戦略におけるデータ分析は、これからもますます進んでいくと思われるが、最後は、人と人の信頼の絆というところが、このスポーツの醍醐味かも知れない。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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