そこから見えたのは、個人の偏愛や嗜好性が際立つ「私が主役」の世界だった。テクノロジーによって新しい働き方を実現する未来を先取りし、誰もが主役になれる世界。今、新しい旅が始まる。
CASE1. Change × Jobbatical
初対面の挨拶を交わすと、彼女は間髪入れずに聞いてきた。
「今、抹茶に凝っているの。お勧めはココナッツミルクで割るラテだけど、いる?」
レンガと木の素材が生かされたロッジのようなオフィスに入ると、高い天井から吊るされたブランコが目に飛び込んできた。
私が最初に通された場所はキッチン。彼女はおもむろに抹茶茶碗と茶筅を取り出し、「自己流なんだけどね」と茶を点て始めた。エストニア発のスタートアップ、Jobbaticalの創業者、カロリ・ヒンドリクスだ。
実は約束の時間から1時間ほど待たされた直後、このおもてなしである。窓からは春が近づく季節にもかかわらず、雪が舞い降りるのが見える。そんな雪景色と、彼女のシンボルカラーである赤のスーツとのコントラストに目を奪われていた。時間を気にすることもなく、丁寧に抹茶を点てる彼女の後ろ姿を見ていると、外国からの来客を楽しんでいるようにも見える。
彼女は微笑みながら私にカップを渡す。「お口に合うかしら」。
「海の見える場所で、3カ月間だけソフトウェア開発がしたいけれど、どんな企業がある?」。そんな要望に答えてくれるが、Jobbaticalだ。いまや、スカイプに次ぐエストニア発サービスの代名詞のように語られる。住みたい国や関わりたいプロジェクトをベースに、優秀な人材と企業を世界規模でマッチングさせる転職サービスプラットフォームだ。
「Job(仕事)」と「Sabbatical(長期有給休暇)」の概念の造語を企業名としている通り、世界を旅するように働きたいクリエイティブ人材をターゲットにしている。2014年末にローンチし、わずか4年でユーザー数30万人を突破し、世界中に広がっている。
彼女は突然こう切り出した。「いま、最もアクティブユーザーが多い国はどこだと思う?」。私が「アメリカ?」と答えるとうなずく。首位のアメリカにインドが次ぐ。「最近は、実に興味深い動きがあるんです。Jobbaticalにもブレグジットの波が押し寄せているの」。
ブレグジットの問題に激しく揺れたイギリスのユーザーが、この1年で激増したというのだ。
「Jobbaticalのサービスを利用する人たちが重要視する要件のひとつが『変化』なんです。自身が身を置く環境が、否応なしに変化にさらされる時代の中で、それを敏感に感じ取った人たちがそれを受けてアクションを起こし始めている。しかも面白いことに、変化を味わえる場所に自らを置きに行くの」
それはなぜか。「変化はチャンスだから」とカロリは指摘する。その変化の中でこそ、挑戦が求められる。自身の能力を発揮しやすく、成長も実感できる。
「そういう私も、最初の起業以来、ずっと自分を『変化中毒』だと思ってますから」