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2019.06.09 11:30

エストニア発 旅しながら働くデジタルノマドの「大航海時代」に


現在35歳の彼女が早くも起業家と呼ばれるようになったのは16歳のときだ。冬など日照時間が4〜5時間程度になるエストニアでは、暗くなると、すべての歩行者は発光するものを安全上身につけなければいけない。そこで、彼女はアクセサリーにもなるお洒落な反射板を発明、その特許を得て、国内最年少の起業家となった。その後、ヨーロッパを代表する起業家の階段を上っていく。


Jobbaticalの創業者、カロリ・ヒンドリクス

19歳で欧州議会でスピーチをし、23歳にはMTVエストニアのCEOに抜擢された。「そこで『オンデマンド』っていう言葉に出合うんです。好きなときに、好きな場所で、好きなコンテンツを視聴する。これは、『働く』という領域でも使えるんじゃないかって思ったの」。メディア業界でキャリアを積み、次なる挑戦を前に、8日間の休暇を過ごすためマレーシアへ。
 
「私が集めてくるさまざまな経験を積んだ人たちを賢く活用する場があったら素晴らしい事業になるのでは?」というアイデアと共に、旅行中に時間を持て余し、こんな思いに駆られた。

「旅をしながら仕事ができたらいいな」
 
12年にはシリコンバレーのシンギュラリティ大学に通った。カロリは毎朝グーグルのキャンパスの前を走りながら、自分に問い掛けた。「なぜシリコンバレーには急速に成長を遂げている企業が多いのだろうか」。それから自らのアイデアと照らし合わせて問う。「エストニアのような無名な小国で、どうしたらインターンではなく、実践力となる人材の確保ができるのだろう」
 
実は旅先のマレーシアでも優秀な企業集団を目にしていた。シリコンバレーのような場を創出するために必要なこと。それは「知識の分配や拡散がすべて」だと気づく。帰国後は娘が生まれて子育てに専念したが、娘がちょうど1歳になったとき、ついに「Jobbatical」の立ち上げに取り掛かった。構想から約2年の思索の旅だった。まさに自身の「個」の体験を基にしたアイデアをサービスに詰め込んだ。
 
最近カロリがサービスを通じて注目しているのは、国がどのように変化に対応しているかによって集められる人材の質が変わってきているということだ。例えば、シンガポールやエストニア、マレーシアなどは、働き方の環境整備など、時代の変化にスピード感をもって対応している。どの国よりも早くJobbaticalに賛同してくれたのもそれらの国々だ。

結果、世界的にトップ技術を持ち、どこでも働けるロケーション・インディペンデントな人たちから選ばれ始めている。実際、Jobbaticalのサービスの中でもユーザーの人気国である。つまり「変化」こそが、優秀な人材確保のキーワードとなっているのだ。

「make a difference」しながら働く
 
「エストニアもまた、国自体が『変化』を生み出さなければ生き残ってこられなかった歴史的・地政学的な背景があるんです」。歴史を紐解けば、エストニアは常に近隣国の領土争いに翻弄され、ロシアなど様々な国の支配を受けてきた。1991年に名実ともに独立したが、何もないところから始めなければならなかった。
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文=谷本有香 写真=ビルギット・プーヴ、アンドレス・テイス

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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