エストニアの実像を語る日下光と山口功作
のどかなエストニアで電子化が成功したのはなぜか。
山口は「一番大きな要因は、実は技術ではない」と前置きした上で「インターネット、情報技術で国民を幸せにするんだという議論が活発に行われたのです。また政治や行政などサービス設計者側に技術者がいたということも非常に大きかったと思います」と答えた。
さらに「日本では概念議論が行われていない」と指摘。「エストニアはIDカードを国民全員に配っていますが、当初は日本のマイナンバーカードと同じように、番号で管理されることへのアレルギーはあった」と明かす。
日下はこう続けた。「日本は技術大国。ただ、どれだけいいシステムを作っても日々の習慣やオペレーションが変わらないと使えないし、みんな使いませんよね。結局ダブルスタンダードで無駄になってしまう。民間企業も利潤動機によってマイナンバーなどの活用を弾いてしまっている」
「Local government as Startup」
「日本で行政サービスの電子化に向けて大きく変わるブレイクスルーポイントはどこにあると思いますか」(谷本)
山口は、その鍵は「自治体が握っている」という。「自治体そのものが変わらなきゃいけない時期なんです。私はよく行政へのアドバイスを求められますが、 “Local government as Startup”だと思っています。前例はないのが当たり前。市民をこうやって幸せにするんだというビジョンを持たなければいけません」
日下はコミュニティの可能性に触れた。「Common +Unityとすると、人間は生まれて死ぬまで様々なコミュニティに属します。場所に依存することなく、私たちは地域を選ぶことができる。エストニアはコンパクトでシンプルな政府だからこそ、同じ課題が見えていますが、日本の場合は自治体単位で課題意識は違う。地域ごとに未来志向で考えて行くことが大切ではないか」
谷本はエストニア取材を通じて「ブロックチェーン的な国家」という印象を語った。一人一人の個性が分散化され、信用で繋がっている社会。それは「個をどう確立して行くか」という問いに繋がる。
山口は「プロジェクトペースの離合参集型の働き方では、他と比較しない自分なりの幸せを持つことが大切」。日下は「自分ごとの視点で見ると、エストニア移住は僕にとっては居場所探し、個人のアイデンティティの確保だった」と振り返り「生まれる場所は選べないけれど、ロケーションインディペンデントの価値観を投げかけてくれていると思う」と語った。