これは、小売業界全体に影響を及ぼす問題だ。百貨店のメイシーズやJCペニー、家電量販店のベストバイをはじめとする複数の小売業者がすでに、中国製品を値上げする可能性を示唆している。
ただ、中国からの調達は減少する可能性がある一方で、別の生産拠点を確立するには時間がかかることから、同国からの調達が完全になくなるわけではない。実際のところ、中国からの輸入は今年第1四半期、前年同期比0.7%のマイナスとなっている。
問題は中国製の商品が米国の小売業者にこれまで提供してきた価格優位性が、急速に失われつつあることだ。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国製の衣料品の平均小売価格は昨年第2四半期、1ユニット当たり25.7ドル(約2770円)で、ベトナム製をわずかに上回る程度だった。だが、それから約1年後、2倍以上となる同69.5ドルに跳ね上がっている。
記事はさらに、米国のアパレルメーカー向けに中国で生産される衣料品のアイテム数が今年第1四半期末までに3分の2以上減少、在庫管理単位(SKU)数が8352になったことを指摘している。
今後のさらなる関税率の引き上げは、中国製品の価格競争力を一層低下させる。だが、ファッションとアパレルに関する研究が専門の米デラウェア大学のシェン・ルー准教授は、調達先としての中国の競争力が、それによって根本的に変わることはないとの見方を示している。
短期的には、ルー准教授の見解はおおむね正しいといえるかもしれない。だが、長期的に見れば、米国の小売業者はその他の調達先を探し続け、生産拠点としての中国の地位は低下していくことになる可能性が高い。
生産拠点の分散が急務
新たな調達先は、どこになるのだろうか。ベトナム、バングラデシュ、カンボジア、そしてトルコが有力な候補だと考えられるだろう。米国で販売されるジーンズの多く(約5.3%)を生産してきたメキシコは、男性向けの衣料品の受注を急速に増やすことになるかもしれない。
スイスの金融大手UBSは先ごろ、関税率の引き上げで今後、さらに多くの店舗が閉鎖に追い込まれる可能性があるとの調査結果を明らかにした。コストの増加が、小売店に対する圧力となることは間違いない。米国内では小売価格が全般的に、上昇していくことになるだろう。
ただし、そうは言っても、小売業者はこうした状況を何とか乗り切っていくと考えられる。最終的には、米国で販売されている衣料品のうち中国製が占める割合が低下し、別の国からの調達が増えるということだ。
一部の小規模な小売業者の中には、事業を縮小することになるものもあるだろう。だが、そうした企業には恐らく、対中関税の他にも問題があったのだ。
小売業者が外国に調達先を確保するのは、一般的なことだ。そして常に、1つの国に過度に依存するのは良いことではない。複数の調達先を維持しておくことが、小売業者の将来にとっては有効な策であるはずだ。