国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」

VWの電気レーシングカー「ID.R」

フォルクスワーゲン社(以下VW)が、ディーゼルから電気自動車に真剣にシフトしていることを証明した。世界一過酷なサーキットと呼ばれているドイツの「ニュルブルクリンク」で、VWの電気レーシングカー「ID.R」が6分5秒のラップタイムを出し、EVとして世界最速の新記録を叩き出したのだ。

VW社にとってこれは、昨年のパイクスピークで出した新記録に続く2つめの重要な記録となるが、ただの記録という以上に、2つの大きな意味をもつ。一つは当然、電気自動車の可能性をアピールする意味。もう一つは、VW社が会社の方針として、ディーゼルエンジンから電動化にシフトしようとしているという表明だ。

2000人のIT専門家を採用へ

同社が電動化やEVにシフトするのにはワケがある。まだ記憶に新しいのは、2015年にVWがディーゼルエンジン制御に関する違法行為を犯した事件だ。それによりディーゼルエンジンに対する世間の信頼が暴落し、世界で記録的なリコールが発生し、ディーゼル車の販売もかなり落ちた。

そこから立ち直るために、同社は採用方針も変える必要があった。面白いことに、このID.Rの新記録が出たのと時を同じくして、同社は今後4年間で、一般業務の4000人を解雇し、代わりに2000人のIT専門家を採用する予定があると発表した。つまり、ディーゼル車とそれに関わる人員を思い切り減らし、電動化やITなどの新技術の開発にシフトするということだ。

だから僕から見ると、ID.Rのタイムは、VW社にとって象徴的なものに映る。



また、この素晴らしい最速ラップは、これから電動化を真剣に開発して行こうというVW社にとって、電気自動車の「熱処理」という重要な課題にスポットに当てたことになる。

ニュルブルクリンクには、73ものコーナーがある。そのあらゆるラップタイムをいつも気にしている同僚や友達との間では、このID.Rのタイムの話題で非常に盛り上がった。ID.RはEV車では世界最速ではあるけど、全ての車両の中では世界2位の記録だ。最速タイムは、ルマン24時間レースカーをベースにしたポルシェ919 ハイブリッドEVOが昨年出した5分19秒で、これは当分破れないだろう。



とはいえ、ハイブリッド車には、EVにはないエンジンが付いている。ID.Rとポルシェ919の加速性はほぼ同じだけど、EVであるID.Rの270km/hに対して、ポルシェ919のトップスピードは320km/h以上。つまり、パワートレーンの高速域のトップエンドで伸びることはタイムに重要であるのに、そのトップエンドで伸びないのはEV車の弱点と言える。

文=ピーター・ライオン 編集=フォーブスジャパン編集部

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