──あなたは著書の中で、優秀でも創造的・革新的精神に欠ける「A学生」と対比させ、「X学生」の話を挙げています。中国の清華大学学長いわく、今の社会で成功するには、リスクを恐れずに新しいことを試す「X学生」が必要だと。
物事が急変する社会では、絶えず新たな発想で臨まなければ生き残れない。人工知能(AI)や機械学習が多くの定型業務をこなすようになると、創造性が、かつてないほど重要になる。
AI時代に成功するための最善策は、コンピュータができない創造的思考を発展させることだ。創造性は、仕事での成功だけでなく、充実した人生を送るためにも必要であり、喜びや意義、充足感を与えてくれる。個人も企業もコミュニティーも国家も、創造的に考え、行動できるかどうかに将来の成功がかかっている。
──「創造的思考者」とは、具体的にどのような人のことでしょう? 著書の中で、Creativity(創造性)の“C”を大文字で表した「ビッグC創造性」と、小文字にした「リトルc創造性」に言及されています。前者はノーベル賞受賞者の発見や著名芸術家の作品など、後者は日常生活のアイデアなどを指すそうですね。
創造性と言うと、レオナルド・ダ・ヴィンチやアルバート・アインシュタインなどを想像しがちだ。しかし、革命的な科学上の発見を行ったり、有名な作品を生み出したりする人々だけが創造的思考者ではない。誰もが、自分自身の生活で創造性を発揮し、創造的思考者になれる可能性を秘めている。
出身や家庭環境などにかかわらず、あらゆる子供たちがスクラッチやLEGO(レゴ)ロボット、コンピュータ・クラブハウスで創造的思考者としての能力を発展させられるよう、手を差し伸べたい。創造性を花開かせるには、その可能性を育まねばならない。
創造的能力は年齢を問わず高められる
──創造性を育てるための学習法として、「クリエイティブ・ラーニング・スパイラル」(創造的学習スパイラル)を提唱されています。幼稚園だけでなく、MITの授業にも取り入れているそうですね。
創造性プロセスは、Imagine(発想)、Create(創作)、Play(遊び)、Share(共有)、Reflect(内省)、そして、一連のスパイラルから得た経験に基づく新たなImagine(発想)という要素から成り立っている。
例えば、子供たちが空想上の物語を思い描く。次に、木製ブロックで塔を作るなど、発想を創作に移す。そして、塔の中に人がいるという設定を思いつき、その登場人物になって塔で遊ぶ。次に仲間と協力し、考えを共有する。誰かが新しい塔を作れば、その仲間が新しい物語を作るなど、共有と協働を繰り返す。ひとたび塔が倒れれば、「どうしたら、もっとうまくできるか」と内省する。そして、上記の一連の流れがまた新しい発想を生み、このプロセスがスパイラル(らせん状)に続いていく。
こうしたクリエイティブ・ラーニング・スパイラルは、MITメディアラボでも見られる。学生がスクラッチの新機能やコンピュータ・クラブハウスの新活動を模索する際、発想や創作、遊び、共有、内省、そして、また新たな発想を繰り返す。幼稚園でもMITでも、最も創造的な活動は上記プロセスに基づくものだ。あらゆる学びには、こうしたプロセスが伴い、年齢を問わず、創造的能力を高められる。体験や探求を続けることが重要だ。