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──スクラッチを使って創造的思考者として成長するための基本原則は、Projects(プロジェクト)、Passion(情熱)、Peers(仲間)、Play(遊び)だそうですね。この「4つのP」について、その重要性も含め、説明してください。

例えば、日本では20年度からプログラミングが教育制度に取り入れられる(注:小学校高学年)。プログラミング学習への関心が世界中で高まっているが、往々にして技術的スキルのみの導入にとどまっているのは残念だ。

スクラッチでは、子供たちが、情熱を抱いている好きなプロジェクトに取り組み、プログラミングを学ぶ。仲間たちと協働しながら、遊び心を持って学べるのだ。スキルを学ぶだけでなく、創造的思考者として成長できる。

まず、1つ目のPである「プロジェクト」だが、スクラッチはプロジェクトベースだ。ウェブサイトには、子供たちが創ったプロジェクトが満載だ。種々のプロジェクトに取り組むことで、プログラミングに加え、創造的プロセスも学べる。子供たちが創造的に考え、体系的に推論し、仲間とともに学べるよう後押しするには、プロジェクトに取り組ませることが最も効果的だ。

また、スクラッチは、特定のゲームの創作など、一部の子供たちの関心を満たすためのものではない。誰もが自分の関心に基づき、多くの異なるプロジェクトを進められる。これが、2つ目のPである「情熱」だ。人は、関心のあることには長い時間をかけて一生懸命に取り組み、困難にも粘り強く立ち向かう。情熱は創造性を引き出す。学校の勉強にはあまり興味を示さない多くの子供らが、コンピュータ・クラブハウスでは、自分が好きなプロジェクトに一心不乱に取り組む。 

3つ目のPである「仲間」だが、最も創造的なものは、ロダンの彫刻「考える人」のように、座って熟考することからは生まれない。協働や考えの共有など、学び合うことから生まれる。スクラッチは単なるプログラミング言語でなく、子供たちがプロジェクトを共有し、仲間たちからフィードバックや激励、ひらめきを得られるオンラインコミュニティーだ。

最後のPである「遊び」だが、遊び心のあるアプローチとは、リスクを冒して新しいことに挑戦し、限界を試すことだ。スクラッチでは、子供たちが安心して新しいことを試み、うまくいかなくても失敗だと捉えず、学びの機会だと考えられるような環境づくりを目指している。

──著書の中で「自分やコミュニティーのために新しい可能性を切り開く創造的な人、つまり、『X人』たちであふれた世界」が究極の目標だと書かれていますが、実現に近づいているでしょうか。

まだ先は長い。大半の学校は、創造的思考を後押しするような場所にはなっておらず、多くの親たちも、どうしたらいいかわかっていない。だが、私は短期的には悲観論者だが、長期的には楽観視している。教育制度の構造を変えるのは一筋縄ではいかないが、時間をかければ、人々が創造的思考の重要性に気づいてくれるという自信がある。

世界中で個々の教師や組織が創造的思考を育み、見事な成果を上げていることも、希望のよりどころになっている。 例えば、サンフランシスコの体験型科学博物館「エクスプロラトリアム」のティンカリング・スタジオでは、いろいろな素材を用い、創造的方法で、さまざまなタイプの工作などができる。また、イタリアで生まれた(創造的思考重視の)レッジョ・エミリア教育法なども実に革新的だ。こうした数々の例から、どのように「4つのP」が活用されているかを学べる。

とはいえ、世界で変革を起こすには、まだまだ、やるべきことが山積みだ。人々の創造的思考を高め続けることは、決して終わりのないプロセスである。


ミッチェル・レズニック◎マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのラーニング・リサーチ教授。プログラミング環境・コミュニティ「スクラッチ」開発チームのリーダー。低所得者層の若者向け課外学習センター「コンピュータ・クラブハウス・プロジェクト」共同創立者。著書に『ライフロング・キンダーガーテン』。

肥田美佐子 = インタビュー マルチン・ウォルスキー = イラスト

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