ビジネス

2019.06.06

ビジネスとしてのバレエを成功に導いた事業家・熊川哲也が目指す「完璧という領域」

熊川哲也(撮影=小田駿一)


さらに、同じ芸術でも、絵画はずっと家に飾って楽しめるけれど、バレエは景色と同じで、自分の中に感動をインプットして楽しむもの。「あの夕日、きれいだったね」と、「あのバレエ美しかったね」という感動は同じで、よくバレエは「敷居が高い」なんて言われるけれど、本来は決して難しいものではないんです。山を眺めてきれいだな、海を見て美しいな、と思うこととバレエは同じでいい。でも、それに対して「18,000円くださいね」ってなるわけだから、矛盾のような気がしますよね。

人間は、心の満足かお腹の満足かを天秤にかけたとき、つまり、バレエか高級焼肉かどちらにお金をかけようかと悩んだときには、大体目の前のお肉を選んでしまうもの。でも、何回かに一回でもバレエを選んでくれたら、また違う幸せの味を楽しめるはずなんです。僕が取り組んでいる事業は、バレエを選んでくれる人そのものを増やしていく、その土壌をつくっていくことに他ならないんです。

日本において、バレエは長い間陽の目を浴びずにいたお家芸的な芸術でした。国がバレエ団を運営してダンサーを支えるフランスなどに比べて、日本ではその仕組みや土台そのものがない状態だったから。そんななかで僕が率いるKバレエカンパニーは、古典作品+オリジナル作品の創作と上演はもちろん、運営するバレエ学校で次世代のスターダンサーを育て、彼らが輝けるステージと作品を常に用意しながら、バレエに対する観客の意識や文化までをじっくりと耕していく──。20年かけてつくってきたこのいいサーキュレーションをうまく潤滑させ、これからも新規事業という新しい輪をもっと増やしていけたらと思っています。

名付けるなら、「トータルアート商社」かな。バレエという芸術をつくりあげている要素は、因数分解してみると、美術や建築、衣装、音楽、絵画、メイク、所作など、どれも心が豊かになるものばかり。だから、芸術監督である自分は、もっとバレエという総合芸術を突き詰め、事業としてもより豊かな世界をつくっていきたいと思っています。

文・構成=松崎美和子 写真=小田駿一

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