──そのようなスキルを開発するために何が重要になるでしょうか。
新しい教育システムが必要だ。これまでの学校教育は既存の労働力を生産するのに適していたが、未来の仕事に対応するには学校インフラから教える中身まで、システムそのものをアップデートしなければならない。いままでは大学を卒業したら終わりだったが、今後は生涯教育が必須になりすべての人口が対象になる。国レベルでインフラを整え、コンテンツを開発するのは容易なことではない。多分野でのコラボレーションが重要になる。
──教育システムのアップデートに加えて、産業界ではどのような対応が求められるでしょうか。
第四次産業革命による労働市場の変化は新興企業や中小企業が最も影響を受けることになる。それらの企業をサポートする仕組みが必要になるだろう。一方で、新しい教育コンテンツの開発など、起業のビジネスチャンスも生まれるかもしれない。
──参考になる取り組みはありますか。
シンガポールでは政府、企業、個人が共同で取り組むプロジェクトが始まった。IMDA(シンガポール情報通信メディア開発庁)を中心に、産業のデジタル化促進のためのロードマップを敷き、次のデジタルテクノロジーのトレンドを見きわめた戦略を打ち出している。企業向け支援のほか、労働者に新しいスキルを備えてデジタル市場で雇用機会を掴めるように促している。
──第四次産業革命で失われる仕事の多くは事務職や単純労働など女性労働者の割合が高く、男女の労働格差の悪化を懸念する声もあります。
重要な問題だ。WEFのジェンダー格差指数のレポートでも、職場での男女格差の改善速度は遅く、特に今後伸びると予測されるデータやAI関連分野で女性の進出が遅れている。企業もこの問題に気づいており、積極的に女性を新しいポジションに採用しようとしている。興味深いのは、未来の仕事は今まで誰もやったことがない仕事が大半を占めるようになる点だ。例えば、現在はハイテク関連のリーダーのポジションの仕事は男性が就くことが多いが、未来の仕事は従来とは全く違う、女性にバイアスがないような仕事を新たにデザインすることができるかもしれない。
──レポートは新聞や雑誌などで取り上げられ大きな反響を呼びました。
2016年に初めて「仕事の未来」レポートを発表した時は雇用に与えるネガティブな影響の数字が強調され、戸惑う声も多かった。2回目の今回はより強くポジティブな反応が多かった。前回から時間が経ち、企業や政治家も変化を受け止めて建設的に考える余裕ができるようになったのではないか。
レポートの発表後、企業によるビジネスのコラボレーションや国単位で第四次産業革命に対応するための努力が生まれている。将来に向けて世界はいい方向に進んでいると感じる。
ティル・レオポルド◎WEFの新経済社会センター、インクルーシブ経済長。『仕事の未来』『グローバル・ジェンダー格差』『グローバル・ヒューマン・キャピタル』など、WEFによる複数のレポートを共同執筆した。ケンブリッジ大学卒。国際労働機関(ILO)、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)などを経て現職。