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2019.06.07

日本の化学メーカーが「世界初の新技術」を連発!常識を超える研究開発の舞台裏

ともに1985年生まれの伊森洋一郎(左)と齋藤隆儀。「僕が諦めそうになった時、伊森は諦めなかった。彼が諦めそうになった時には僕が粘った」(齋藤)。

今年4月に発売された花王の洗剤「アタック ゼロ」が話題を呼んでいる。10年ぶりに改良されたアタックには、革新的な技術が新たに投入されている。汚れを落とすのではなく、つきにくくすることで、洗濯をマイナスからプラスの行為に変える洗浄技術「AC-HEC」だ。洗濯の概念を変える新発見といっても過言ではない。

花王はさらに、人造皮膚「Fine Fiber」、肌の将来を予測する「RNA Monitoring」、美しい髪色をつくる「Created Color」といった技術イノベーションを次々に発表。その研究現場と、4つの技術を取材した。


1.汚れをつきにくくする「AC-HEC」


新技術「AC-HEC」の合成装置。AC-HECとは、セルロースで衣類の繊維を水になじみやすくし、結果、汚れが落ちやすく、つきにくくする技術。自然界に豊富にある資源であるセルロースは水に溶けないため応用が難しいとされているが、水溶性に合成されたものがAC-HECだ。

「洗う」ということに向き合ってきた花王が、新たな局面を切り開いた。30代の同期コンビが、AC-HECという洗浄技術を導き出したのだ。

きっかけは「革新洗浄プロジェクト」と銘打った社内課題。マテリアルサイエンス研究所の齋藤隆儀らに課された研究テーマは「汚れをつきにくくし、落としやすくする何か」をつくる、というものだった。

背景にあるのは、温度調節機能に富み、アイロンの必要がなくなるほど復元技術に優れた化学繊維を使用した衣類の急増、そして節水型のドラム式洗濯機の普及だ。


「洗う」を考え続けて132年。花王和歌山研究所の洗浄室には世界各国・主要メーカーの洗濯機が並び、さまざまな条件下で洗濯実験が行われている。

ポリエステル繊維は便利な半面、洗濯で皮脂が落ちづらい。また、ドラム式洗濯機は少量の水で洗うため汚れが残りやすい。それが黄ばみや臭い残りの原因となっており、洗濯洗剤にも新しいアプローチが必要となっていたのだ。

「木綿には脂汚れが落ちやすい特性がありますが、それは植物性繊維のセルロースでできているからなんです。だったら化学繊維をセルロースでコートしてしまえばいいのではないかと」

研究で世の中を変えたい

齋藤はその思いつきを胸に、同期の伊森洋一郎の研究室に向かった。伊森はマテリアルサイエンス研究所で、環境調和型のサステナブルな素材であるセルロースに着目していた。そこで、セルロースを原料にして、表面改質技術を応用した洗剤をつくれないかと持ちかけたのだ。伊森が述懐する。

「これが実現できたら世の中が変わる、という明確なビジョンのあるプレゼンでした。それを聞いて僕も、消費者のためになるものを生み出したいという熱い気持ちになったんです」


6キロの洗濯物の繊維表面積はテニスコート15面に相当する。キャップ1杯の洗浄剤に配合できる基剤は、わずかにスポイト2滴分。その力で繊維の表面を変えるという難題だった。

ラボでの研究に3年を費やしたが、生産体制に入る前にさらなる壁にあたる。AC-HECを洗剤に配合できる構造に変え、並行してスケールアップも検討しなければならなかったのだ。

だが、壁にぶつかるたびにその道のプロが加わり、実機に入る頃には50人からなる強力なチームができあがっていた。

開発を下支えしたのは、社内の研究報告書システムだ。研究者は過去の研究を自由に閲覧でき、先人たちの格闘の跡を知ることができる。うまくいかなかったアプローチも含めて記されているので、次の研究者は同じ轍を踏まずに済む。だから「失敗も一つの成果」と前向きに捉えられる、と齋藤は語る。

研究で世の中を変えたいという思いは、こうして実を結んだ。当時の興奮を思い出し、今でも2人は「あの時が一番ワクワクしたよね」と語り合うという。

ポーカーフェイスの伊森が、齋藤のことを「一生のパートナーだと思っています」と言うと、自称「研究バカ」の齋藤は、照れくさそうに小さく頷いた。

2.皮膚を超える皮膚「Fine Fiber」


人造皮膚「Fine Fiber」。1本の極細繊維を吹き付けて液体をなじませ、肌に密着させる。


従来のシリコン膜のような人造皮膚ではなく、見えない、感じない、剥がれない“第二の皮膚”。Fine Fiberは花王の基盤研究部門、加工・プロセス開発研究所の東城武彦の研究から始まった。

「クイックルワイパー」「ビオレさらさらパウダーシート」などに使われる不織布の研究に携わっていた東城は、電気力を利用して繊維を紡ぐエレクトロスピニング法に興味を持った。この技術を応用して、10年の歳月をかけ、桁違いの柔らかさや追従性、屈曲性を備えた人造皮膚を完成させたのだ。

「繊維を極限まで細くすることでユニークな繊維になることは感じていましたが、どのように応用できるかは具体的に見えていませんでした。当初は見向きもされず、はたからは遊んでいるようにしか見えなかったかもしれません」


不織布の研究を続けてきた東城武彦。苦節10年、信念が結実した。

年に一回開催される基礎研究発表会の場で披露するも、いったい何に使うのかと疑問視する声があがった。一方で「これはすごい。やめずに続けろよ」と声をかける幹部もいて、「とても心強かったし、大きなモチベーションになった」と東城は振り返る。

彼自身、この技術は絶対モノになると信じていたが、実際は「何度やめろと言われたかわからない」ほど風当たりが強かったからだ。






「Fine Fiber」は、小型の専用装置にセットした化粧品用のポリマー溶液を、装置のノズルを通して肌に直接噴射し、肌表面に極細繊維からなる積層型極薄膜を形成する技術。化粧品製剤の保持力や均一化に極めて優れ、折り重なった繊維と繊維の間に膜全体に速やかに均一に広がる。繊維の隙間から適宜水蒸気を通し、肌を完全に閉塞することなく適度な透湿性も有する。1本の極細繊維なので最初は白く見える。9割が空洞で、液体を含ませると無色透明の密着膜に。剥がす際の刺激もない。

ここまで注目される化粧品技術は初めて

最初はシート状にしようと考えていたが、繊細すぎて扱いづらく、きれいに貼ることが難しい。それなら直接吹き付けてみようと発想の転換に至った。

「技術的には非常に面白いと思ったのですが、どうやって商品へ応用するのがベストなのか実験を繰り返しました。化粧品の製剤とFine Fiberを組み合わせた時に、すごい毛管力で製剤が吸われて広がる様子、膜に保持された製剤がこすっても簡単にとれない様子を確認できた時、従来の化粧品がつくる膜を超えられるという手ごたえを感じました」

こう語るのはスキンケア研究所の長澤英広だ。彼が所属する商品開発研究部門では、基盤研究の技術と消費者の声をどう組み合わせれば新しいものが生み出せるのかを考えるのがミッションだ。


長澤英広は、スキンケア研究所で商品開発にあたるスキンケア製剤のプロ。


「今までの膜とは完全に異なり、接着剤なしで肌に密着するので、ほぼ無感覚で自然に剥がせる。従来の化粧品にはない、別次元のものを提供できるということです。この技術によってまったく新しい価値とベネフィットを提案できるという予感がありました」

Fine Fiberでつくった膜は90%が空洞になっていて、液体を吸い込む毛管力がある。そのため化粧品製剤の保持力や均一化にも優れている。

社外に向けて技術発表をした後の反響は、予想をはるかに超えて大きかったという。入社して20年、商品開発研究に携わる長澤も「ここまで世の中から注目される化粧品技術は初めて」と驚きを隠さない。

「嬉しさと同時に、期待に応えたいというポジティブなプレッシャーを感じています」

3.肌の将来を予測するオーダーメイド技術「RNA Monitoring」


RNA(リボ核酸)は、DNA情報に基づいてタンパク質を生成するための設計図。従来、不安定ですぐに分解されてしまい活用の難しかったRNAを、世界で初めて皮脂から採取することに成功。そこから得られた情報を解析することで、美容製品のパーソナライズ化や、これまでになかった医療を実現できる。写真は、蛍光染色したヒトの皮脂。大半を占める赤い部分が皮脂の脂質成分だが、ぽつぽつと緑に見えるのがRNAである。RNAからの情報は「肌の一歩先」を予測的に知りうる意味で、画期的だ。


宇宙には、観測技術の限界により、それ以上先を見ることができない「地平線」がある。もちろん技術の進歩にともなって地平線は広がっていくのだが、光速が一定である限り、どうしても見通せない先もある。その領域を観察できるとしたら、科学者にとっては夢のようなことかもしれない。

一方で、人体は小宇宙に喩えられることがある。実は、こちらにも機器を使って見える範囲の情報には超えがたい限界があり、それ以下のごく小さな変化や、将来的に大きな問題になるかもしれない芽のようなものは測定できないのだ。

しかし、これを別のアプローチで「見える」ようにした技術が、花王のRNA Monitoring(アールエヌエーモニタリング)だ。

RNAは、リボ核酸の略語。DNA(デオキシリボ核酸)が世代間で情報を伝える仕様書のようなものだとすれば、RNAはDNAに基づいてタンパク質を生成する、いわば現場の設計図だ。これは環境要因によっても変化し、その多くは用が済めばすぐに分解されてしまう。「人体が細胞レベルで、今まさにどちらに向かおうとしているのか」を知りうる有益な情報だが、利用するのは簡単ではなかった。

花王は皮膚科学を長年進めてきたなかで、皮脂から1万種におよぶRNAが抽出可能なことを世界で初めて発見した。この技術によってRNA情報を高度データ化し、AI分析で知見を蓄積すれば、目に見えない微細な皮膚のコンディションや、将来的な変化(=リスク評価)さえも知りうる。

つまり、次世代スマートファクトリーと組み合わせるなどすれば、個々の肌に合わせてパーソナライズされた美容製品を顧客のもとへ届けることも可能になる。他方で、予防領域など医療分野への応用も期待される。

4.なりたい髪色に誰でもなれる新技術「Created Color」


Created Colorは、安心して簡単にカラーリングを楽しめるようにと開発された新技術。白髪ケアでは、メラニンの生合成経路にみられる「黒髪メラニンのもと」(ジヒドロキシインドール)を、麹の発酵技術を応用して製造。白髪に、黒髪がもつ自然な黒さを補うことを可能にした。また、新規に開発した非反応型の染料では、鮮やかな色付けも可能。この場合も髪へのダメージはなく、かつ専用シャンプー・コンディショナーで髪色が変わるという魔法のような効果も。

人類は古代からさまざまな染色を楽しんできた。美の概念は時代や人種によって変われど、美しい色をまといたいという欲求は全人類共通のものなのだろう。

そもそも染色とは、物質に含まれる色素が繊維の表面や内部に留まることで発生する。ヘアカラーも基本原理は同じで、薬剤で髪を膨潤させて、髪の内部に色素を定着させる。

ただ、この科学的な作用のなかで、主に酸化染料によるアレルギー反応が稀に報告されている。アレルギーは突然に発症することもあることから、万全を期すためにヘアカラーの前には毎回、パッチテストを行うこととされている。

花王が開発したCreated Color(クリエイテッドカラー)は、パッチテストの必要がなく、髪に負担をかけずに染められる上、皮膚は染まりにくいという画期的な技術だ。

髪を黒くしているのはメラニンという色素だが、白髪にはこのメラニンがない。花王はこの点に着目し、「黒髪メラニンのもと」を100%天然由来の原料から作り出す技術を確立。これを着色成分として配合した、まったく新しい白髪ケアを誕生させた。

人種によって異なる毛髪メラニンの本質研究を続け、将来的にはブラウンの髪色実現も目指す。

また、黒色だけでなく鮮やかで多彩な色合いをつくる技術も開発した。これは、富士フイルムとドイツのドレスデン工科大学と共同開発した3色の鮮やかな新染料で、毛髪を年輪のように層状に色付けすると、光の当たり方で見え方が変化する特殊なカラーリング技術だ。

専用シャンプーとコンディショナーを使えば、毎日の洗髪で色を変えることができ、髪に負担をかけずに髪色を自在に変えられる。それも、これまでにないほど鮮やかに。


「洗濯する」や「髪を染める」など、「日常の当たり前」を大きく変える可能性のあるこれらの技術と、未来を見据えて研究開発を続ける花王の技術者たちを紹介するコンテンツサイト「花王の顔」はこちら

Promoted by 花王 / 文=三井三奈子 写真=大中 啓、吉澤健太

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