「問題だらけの場所」を人気組織へ 経営者・小林いずみの面白いスパイラルづくり

Women Corporate Directors日本支部共同幹事も務める、小林いずみ


──メリルリンチ日本証券社長の後、2008年11月に世界銀行グループ多数国間投資保証機関(MIGA)の長官に就任されました。

リーマンショックの直後で、MIGAは組織の面でも仕事の面でも色々な問題を抱えていて、組織とビジネスを完全に立て直さないといけない時でした。どうやって立て直して、皆がわくわくするような楽しい仕事に変えていくか。それは私にとっても、わくわくするチャレンジでした。

私が入った時のMIGAは世銀の「問題児」と呼ばれ、グループ内で従業員満足度が最下位でした。それが4年と7ヵ月後、私が退職するころにはトップ近くに。理事会で「MIGAは理事会の寵児だ」と言ってもらえるまでに変わりました。

世銀の他のグループから「行きたくない」と言われていたのが、「MIGAに行きたい」と手が上がるようになりました。すごく嬉しかったですね。

──どうやって組織を変えたのですか。

MIGAは当時、120〜130人。それ程大きな組織ではありません。まず、全員が事業に参画しているんだ、という意識を持ってもらおうとしました。「どうせ私なんて隅っこでちょっとやっているだけ」というのではなくて、「自分が運転的に座っているんだ」という意識です。

あとは、ビジョンを明確にしました。ビジョンはここで、このゴールに向かって皆がそれぞれの立場で、運転席に座っているんだ、と意識できる組織にしました。

──全員の意識を変えるのは容易ではありません。

一つは、皆の声を聞くことです。誰もが声を上げられるような会合やイベントを開いて、「自分が参加しているんだ」という意識を持ってもらいます。

仕事の会合だけでなく、皆で遊ぶこともありました。自分はこの組織のメンバーで、自分自身が何かを変える力を持っているんだ、ということを感じられるようにイベントを企画して、私自身も参加して一緒にやりました。

二つ目は、自分たちのポジティブな変化を外から認識されている、という実感をもってもらうことです。外からのポジティブな評価を聞くと、自分たちがそういう組織に所属しているんだ、と誇りを持てるようになります。

そのためには、少しずつ結果を出していくことが重要です。鶏と卵の関係のように楽しいと思ってやれば、周りの人も楽しそうにやっているよね、という風に見てくれる。

そうすると「いいよね、あそこ。うらやましいよね」となる。それが聞こえてくると、「自分たちは楽しいところにいる」「面白いことをやっているんだ」となる。なので、最初の「面白いスパイラルの根っこ」を作る、というのが味噌だと思います。それが回り始めれば、どんどん回ります。

一人ひとりが面白がって仕事をしている時は、必ず結果がついてきます。それが回り始めたら、私のリーダーとしての役割は間違った方向に行かないように、常に適切な軌道修正をしていくことです。スパイラルをつくり、スパイラルが回り始めたら持続するような微調整をし、外に対して発信する。その3つですね。

──問題がある組織にあえて飛び込んでいるように見えます。

最初は嫌なんですよ。でも、「ええー」と思いながら、それを解決できる道筋が見えてくるとすごくわくわくします。

大学生でヨットを始めて、そういう自分の性格に気がつきました。例えば、急に雷雲が来て、状況が一変することがあります。そんな時に、瞬間的に次に起こりうる最悪の状況を考えながら、全員が協力して暗黙の了解で一気にやって危機を乗り越える。それが自分としてはすごく面白い。そこにわくわく感を感じました。
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構成=成相通子 イラスト=Luke Waller

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