最後に紹介するのは、VivaTechの中ではもしかしたら最もローテクなソリューションの一つかもしれないウガンダ発のSeatPackだ。トタルがスポンサーする起業コンテスト「The Startupper of the Year by Total Challenge 2018-2019」の優勝者、アーノルド・ムガッガ(Arnold Mugagga)が立ち上げた。彼は、1万3千の応募から勝ち残った6名の優勝者の一人だ。
ムガッガは、机と椅子といったような基本的な家具すら十分にない、ウガンダの田舎の学校に通う小学生のために、折りたたみ式の軽量の椅子がついた「ランドセル」を考案。簡易的なリュックの背に、キャンプ用の折りたたみ椅子が備わったようなプロダクトだ。下敷きパッドも付属し、机がなくても板書できるような工夫もある。
もともと建築をやっていたムガッガだが、学校建設に携わる中、家具のない教室で床に寝転んで板書する子どもたちの現状を目の当たりにし、このソリューションを思いついたという。さらにSeatPack一つに対して、木を一本植えるという環境改善活動も組み込んだ。
現在の課題は製造コストを下げることと、製造のための資金だと彼は言う。「今は20ドル以上の価格になってしまうが、いずれは5ドルまで販売価格を下げ、一般家庭の親でも購入できるようにしたい」とムガッガ。トタルからは賞金やビジネストレーニングを受けたが、ユニセフなどの国際機関との取引を実現させるためには、製造における品質とキャパシティの課題を解決しなくてはならない。さらなる資金が必要だ。
シンプルなソリューションだが、SeatPackは教育・教室・学校という固定的な学びの概念を覆すような、教育現場における新たなヒューマン・セントリック・デザインの可能性を感じさせる何かを秘めていた。 そう感じたのは、最先端のテクノロジーを盛り上げる場であるはずのVivaTechの会場が、逆に傷々しくも思えるぐらい「グリーン」で埋め尽くされていたからかもしれない。
フードテックなどのヘルス・ウェルネス系に特化したエリアに留まらず、会場内のあちこちで観葉植物が溢れ、「テックだけが未来なわけじゃない」といったメッセージとともに本物の花が並ぶ芳しい花屋ブースが存在し、セールスフォースに至ってはキャンプ場のようなブース設計になっていた。環境破壊やシンギュラリティに抗うような哲学的な問いや、「シリコンバレーの自戒」のような議論はなかったように思うが、そこには目に見えぬ葛藤が存在しているように感じた。
アフリカン・ソリューションは、人々の生活改善に関わる基本的なインフラ構築に関係するものが多いからこそ、人間中心のテクノロジー・ソリューションにならざるを得ない。冒頭で紹介した、オランジュのCEOがいうように、デジタル化とテクノロジーの恩恵を多いに享受できるのがアフリカであるとともに、もしかしたらアフリカン・ソリューションから世界は学び、その恩恵を享受できるのかもしれない。
連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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