ビジネス

2019.06.07

創業から7年、経営体制を刷新。新旧代表が語った、「コネヒト」の過去、現在、そして未来

代表取締役社長を退任し、顧問となる大湯俊介


KDDIの社員でありながら、コネヒトの社長も兼務する。異例の立場となった北吉だが、なぜ彼は今回の打診を受けることにしたのか。

その背景には、コネヒト、ひいてはママリに対しての思い入れがある。

「そもそもグループ入りを推進していた頃、僕にコネヒトの籍はないですし、会社からコネヒトをハンズオンでサポートすることは主務として与えられていませんでした。ただ、さまざまな会社のM&Aを担当した者として、M&Aをした後の対応としてやりきれなかった部分もあって。どこか心残りな部分があったんです。そうした中で大湯さんから話をもらい、正直驚きました。ただ、ちょうど自分にも子どもが生まれ、ママリは世の中に必要なサービスだなと感じましたし、すごく惚れ込んでいたので、一緒にやりたいと思いました」(北吉)

大企業とスタートアップによるオープンイノベーション。ここ数年でよく耳にするようになった言葉だが、未だに成功事例と言えるものは少ない。「大企業の社員を8年経験し、その後、いろんな文化のスタートアップを5年経験した。この両方に足を突っ込んだ自分がコネヒトの経営をするというのは、運命のめぐり合わせだと思いました」と北吉は語り、今後より、KDDIとの取り組みにも注力していく予定だという。

大湯と北吉、両者が歩むそれぞれの道

大湯体制から北吉体制への転換後、コネヒトは何を目指すのか。北吉は「“ママの一歩を支える”というミッションを実現するためには、子どもの年齢をもっと広げていきたいし、出産するママの3人に1人ではなく2人に1人、1人に1人という風に広げていきたいと思っています」と口にしながら、「ママ以外へのアプローチもしていきたい」と展望を語る。

「子育てをしやすくするためにはママの努力だけでなく、家族や企業、そして社会のサポートが必要になってきます。その点において、まだまだ負が多い。“ママリ”というブランドが育ってきたからこそ、別のアプローチをとっても良いかなと考えています」(北吉)

実際、社会発信プロジェクト「変えよう、ママリと」や雑誌『ママリ マガジン』などオフラインでのアプローチも積極的に展開し始めている。今後、より多角的なアプローチをしていくためには、通信インフラとして社会に根ざしているKDDIの力は欠かせない。

その点に関しては、大湯も「ママリ単体でやるよりも、KDDIと協業してやった方が生み出せる社会的インパクトが圧倒的に大きいと思っています」と語る。

「コネヒトとKDDIはいま、お互いに持っていないものを持っている状態になっている。だからこそ、協業することでいろんなバリューを創出していけると思います。現状、KDDIには広く多くのユーザー接点が強く、特定のセグメントに特化した接点は多くない。

ただ、ママリはすでにロイヤリティのあるブランドになっているので、ママリブランドを使いながら、例えとしての例ではありますが、すでにKDDIが手がけているコマースや金融事業を組み合わせていくことは十分に考えられます。やっぱりスタートアップがコマースや金融事業を0から立ち上げるのは大変なので、KDDIのアセットとうまく連携していきたいです」(北吉)

一方、社長を退任した大湯は今後何をするのか。顧問としては「困ったことがあれば引き続き経営をサポートしていく」と語ったが、ひとりの人間として、今後のキャリアをどう描いているのか。メルカリの山田進太郎がZyngaを売却した後、世界一周の旅をし、その過程でメルカリのアイデアを着想したのは有名な話だ。

「今までコネヒトの経営に集中して時間をつかってきたこともあり、今後のことはまだ何も考えられていなくて。とりあえず半年、1年くらいは考える時間をとりたいなと思っています。いろんなところに行って、さまざまなものを見て、感じて。もう一度自分がやりたいと思えるものを見つけたいと思っています」(大湯)

大湯から北吉へ受け継がれた、会社のバトン。北吉は「プレッシャーを感じる」と言いながらも、「大湯、島田がやっぱり続けていればよかったと思わせる仕事をしたい」と決意を口にする。日本では“代表交代”というニュースを耳にすると、どうしてもネガティブな出来事として捉えられがちだが、決してネガティブな側面が強いわけではない。

0→1が得意な人は立ち上げフェーズで力を発揮する。10→100が得意な人はグロースフェーズで力を発揮する。フェーズごとに適材が会社を経営した方がいいのではないか。今回の出来事には、そんなことを思わされた。

文=新國翔大 写真=小田駿一

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