そんななか『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(2017年、光文社)がベストセラーになった。アートとビジネスの融合が進んでいる気配をじわじわと感じる。
では、アート初心者はどのようにアートに触れたらいいのか?
そんな疑問を抱くビジネスパーソンにうってつけの企画がある。「対話鑑賞(ギャラリートーク)」に定評がある東京国立近代美術館(東京・竹橋)が、ベストセラー作家の山口周氏を迎えたビジネスパーソン向けプログラム「ダイアローグ イン ザミュージアム」を開催予定だ。
日本では珍しい「対話鑑賞」を17年間提供してきた東京国立近代美術館ならではの特別プログラムとなっている。本格的な鑑賞プログラムをビジネスパーソン向けに開催する意図や開催内容について話を聞いた。
なぜ、ビジネスパーソンにアートが必要なのか
まずはビジネスパーソンにアートが必要な理由を紹介したい。
東京国立近代美術館で教育普及室長を務める一條彰子氏によれば、「アートこそビジネスシーンに活かせるポテンシャルがある」という。
アートを観察してイメージを言葉に落とし込む力、多様な意見を受け止めて思考を深める力が養われるとのこと。様々なものの観方を持つ参加者との対話を通して議論を進めることは、チームで働くことを前提とした様々な職種に役立ちそうな技能といえる。
東京国立近代美術館で行われる「対話鑑賞」は1つの作品の前に6人グループで腰を下ろし、20分かけて鑑賞する手法だ。作品について感じることや見方を共有し、アートに没入する。他の美術館ではなかなか体験できない唯一無二の経験だ。
東京国立近代美術館 教育普及室長 一條彰子氏
アートに触れる「きっかけ作り」
同美術館がビジネスパーソン向けにプログラムを企画した背景には、社会のニーズが醸成されたタイミングで、美術に親しむ層を拡大する狙いがある。
これまで17年に渡り、ガイドスタッフによる作品解説が毎日行われている(休館日を除く)。また子どもを対象にした親子参加型アートイベント、外国人向けにアートについて英語で話す鑑賞会など魅力溢れる企画が様々開催されてきた。
それでもビジネスパーソンの訪問者は諸外国に比べて少ない。そんな課題意識を持ったタイミングで、山口周氏の著書がベストセラーになった。アート×ビジネスの注目を受け、前館長による山口周氏へのアプローチの結果、満を辞してビジネスパーソン向けのイベント開催に至ったのだ。