優秀な同僚にモヤモヤ
東京に私、シンガポールに外木、の2人体制で始まった海外進出ですが、現地の事業担当は最低1人は必要でした。外木が着任早々、現地の採用エージェントに依頼して募集を始め、1週間後にはシンガポール人の女性と業務委託契約を結びました。私たちにとって、初の「同僚」でした。
新しい同僚は、私たちが何より大事にしていたスピード感を備えていたほか、事業の内容をただちに理解し、採用数日で同国政府との協業に向けた交渉に入るなど、行動力もありました。「立ち上がりが、すごくスムーズ...!」。私は尊敬の念すら抱きました。
一方で、漠然とした不安にもかられました。「これだけ優秀な人がどんどん入ったら、私がやれる仕事は、なくなるだろうなあ...」
ABEJAの前に働いていたリクルートには、こんな決まり文句があります。
「自分より圧倒的に優秀な人を採用しろ」
スタートアップにとって、優秀な人たちの採用は会社の成長に欠かせません。以前から働いている社員にとっては、意識や能力が高まる機会でもあります。逆に言えば、優秀な人に選ばれる会社は「成長している」ということです。
優秀な同僚にモヤモヤした気持ちを抱いていた当時の私は、この言葉を飲み込みきれていませんでした。
自社主催のMeetupを開いたとき、会場から見えたマリーナベイサンズの夜景=2018年夏
能力より、高い山を登ろうする気持ちが大事
同時にこのころ、ネガティブスパイラルにはまりました。
いつかは事業開発やマーケティングにも挑戦したい、という淡い期待を胸に、外木の補佐として入社しました。実際は、それらの仕事を更に海外でやるというチャンスを得ながら、テクノロジーのキャッチアップや慣れない仕事に悪戦苦闘し、自信を失い、どんどん後ろ向きになりました。
時折頭がボーっとして、考えがまとまらない。そしてなおさら仕事がたまる──というサイクルに陥りました。いつ抜け出せるのかが見えず、息つぎの仕方が分からないまま、おぼれないようにもがき続けるのが精いっぱいな感じでした。
ただでさえ人手がいないのに、ミスばかりで足を引っ張るのも迷惑だろう。こんな部下でもやめると迷惑か。そんな思いを外木に相談したことが何度かあります。そのたびに、こういわれました。
「スタートアップは状況がどんどん変わる。だからその時の能力よりも、高い山を登ろうとしている気持ちの方が大切で、むしろ1ー2年は失敗して学んだ方が個人にも会社にもいい。だから諦めずに努力している人は絶対に見捨てない」