ビジネス

2019.06.03

37%が仕事の意義を感じない「Bullshit Jobs」 人類学者が明かす衝撃


私の古い友人で、詩人からインディーズロックバンドのボーカルになった人がいる。彼の歌とは知らずに、彼の歌をラジオで聴いていたこともあった。彼には素晴らしい才能があったが、数枚のアルバムが不成功に終わった後、契約を切られる。負債と新たに生まれた娘を抱え、本人曰く「方向性のない奴らが取るデフォルトの選択」、法律学校の道を選んだ。彼は現在、有名なニューヨークの企業で企業弁護士をしている。「自分の仕事は全く意味がなく、世の中に何の貢献もしていない。実は存在すべきでない仕事だ」と彼は言う。

意味のない仕事をしているほとんどの人々は、実はそれに気づいている。これは甚だしい精神的な暴力である。自分の仕事が存在すべきでないと密かに思っているのに、労働の尊厳などどうして語ることができるのか。深い憤りと腹立たしさを感じるのは当然ではなかろうか。

しかし、我々の社会では奇妙にも、その怒りが「意義のある仕事ができる人」に向けられるようになっている。例えば、我々の社会では一般的に、ほかの人々に明白な形で貢献する仕事であればあるほど、収入が少ないように思える。

感覚的に理解するために「この集団が単にいなくなってしまったらどうなるか?」と考えてみよう。看護師、ごみ収集人、機械工など。彼らが消えたら、あっという間に破滅的な影響を与えるだろう。教員や湾港労働者がいなくなれば世界はいずれ苦境に陥り、SF小説の作者やスカのミュージシャンがいない世界だって今よりよくない場所になるだろう。

一方で、ベンチャーキャピタルのCEO、ロビイスト、広報リサーチャー、数理士、テレマーケター、執行官、または法律コンサルタントらが同じように消えてしまったとしても、人類が同じように苦しむかは完全に明確ではない。

実際の生産者は圧迫され搾取される。残りの人々は失業者層と、支配階級(管理者、事務管理者)、特に支配階級の財務上の視点と感覚に共感し、基本は何もしないで給料をもらっているより大きな人口層へと分けられる。これは誰かが意図的に設計したシステムではなく、1世紀にわたる試行錯誤から生まれてきたのだ。テクノロジーの進歩にもかかわらず、1日3時間から4時間労働ではないのは何故か、に対する唯一の説明である。
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文=デヴィッド・グレーバー 編集、翻訳=フォーブス ジャパン編集部 イラストレーション=マルチン・ウォルスキー

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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