多文化共生社会への道を歩み始めた日本に望まれること

画像はイメージ(d3sign / Getty Images)

欧州の寛容な多文化主義が失敗した事例として、前回の記事ではオランダの政策を取り上げた。オランダに定着した移民たちの慣習や宗教観は、リベラリズムの理念・価値観と相容れないばかりか脅威ともなる場面が出てきている。

中東やアフリカの伝統的社会から来た移民たちの中には、個人の自由や人権よりもグループの伝統を重んじて、彼らの慣習が法的問題ともなっている。一夫多妻や女性性器の割礼、「名誉のための殺人」(家族や地域の名誉を傷つけたとして、レイプ被害者などを殺害)といったものだ。

また、LGBTなど性的マイノリティへの暴力も起きている。パレスチナ・イスラエル紛争の国際問題に触発されて、露骨な反ユダヤ主義を唱え、殺傷事件を起こすイスラム教徒も後を絶たない。

こうした「異文化」は、オランダ人が敬愛して止まない「リベラリズム」への挑戦だと、一般市民の反発を買う。そして、過激なマイノリティに対して弱腰な政府への不信。「国としての結束・信頼」と「文化の違い」という2つの理念のバランスがとれなくなってしまったのだ。

さらに、隙を狙うようにして台頭してきたのが、反移民、反グローバリズムを標榜する極右政党や活動家たちだ。ピム・フォルタイン(故人)や「自由党(PVV)」に代表される新興右翼は、イスラム系移民という外敵から国民の仕事や安全、福祉を守らねばならないとアピールし、あたかも自由主義の守護神であるかのように振る舞い、支持層を広げている。

移民という共通の仮想敵を作り、職や福祉という、一昔前は左派の専売特許だった経済問題をハイジャックし、社会的弱者の代弁者を装う巧妙な手口は、ユダヤ人、ゲイ、労働者の一部を惹きつけ、リベラル陣営を脅かしている(アメリカ、英国、フランス、ドイツ、イタリアなどの国でも新興右翼は類似した戦略を取っている)。
 
余談になるが、「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの「国民連合」 やなど、欧州中を騒がしている極右政党に大きな影響を与えたと言われているのが、先述のカリスマ的政治家 ピム・フォルタインだ。オープンなゲイで、元は左派の大学教授だったフォルタインが反イスラム活動家に転向した直接の原因は、イスラム系移民によるゲイへのハラスメントだったと言われている。彼の政党は2002年の総選挙で政権奪取することが予想されていたが、党首自身が熱狂的動物愛護家によって暗殺され、実現しなかった。
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文=遠藤十亜希

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