こうした「客観指標だけで新しいことを始めることのデメリット」は、情報へのアクセスが簡便になればなるほど、落とし穴に陥りやすくなります。そして客観指標だけで乗り越えようとすることへの違和感が、若者たちの悩みの増加と符合しているように思うのです。
おいしくないかもしれないものを初めて口にする勇気を持つ方法はさまざまです。たとえば、
1. 試食のデザイン
どうにかして「ちょっとだけ味見する」方法を考えてみる。香りだけでもかぐことはできないか?少し舐めてみれないか?
いきなりフルコースで注文してしまっておいしくなかったら、値段も高いし、損失も大きい……。そう考えてしまうことが踏み出すことの障壁になっているのだとすれば、リスクの限定化を試みることです。「どうにかして試食することはできないか」と、アプローチをデザインしてみるわけです。案外、自分の思い込みで勝手に「一大決断」にしてしまっているだけかもしれません。
「いきなり購入する決断をしなくても体験できる」カーシェアや、「気に入らなければ売りに出してコストを取り返せる」CtoCサービスなどは、主に若者の間ではリスクを限定化した「試食のデザイン」に成功しているといえます。
2. 多様な食経験を自分の中につくっておく
多様な経験がある人は、たとえ未知の食べ物を前にしても、「きっとこれは色と質感的に、肉の揚げ物だろう」などと類推できる可能性が高くなります。
人生の意思決定、例えば「転職先を決める」といったものの中は、試食(この場合なら”試しにちょっと勤めてみる”ということでしょうか)がなかなか難しいケースもあります。
その時に、”いろいろなものを経験してきた”という、自分の中での経験の多様性があれば、目の前にある未知に対して類推の精度を上げられるはずです。
加えて、さまざまな経験から自分自身の普遍的な「好き嫌い」を確信に近づけることができます。悩む時間や苦しさなどのコストが下がり、よい結果に到達する可能性も上がるはずです。多様性というとコミュニティや組織などでよく使われる言葉ですが、個人の内側にも必要な考え方だと感じます。
3. 目をつぶって口に入れてみる
元も子もないことをいいますが、最後は「口に入れてみるしかない」と思います。失敗したとしても、だいたいは一度で致命傷になることはないはずです。
また、「目をつぶる」のは、これまでの経験則に基づくバイアスを一度、捨て去って意思決定することともいえます。新しい経験をしようとするのに、これまでの経験則だけに基づいてその意思決定をしようとすることに、理論的には無理があります。