ビジネス

2019.06.02 10:00

米国流イノベーションはknow whoで起こす 女性経営者の手腕 


「業績不振の原因は、市場環境より社内にあることが多い。社員の自信を取り戻し、協力体制を築ければ大概のことは打開できる。そこで大不満大会を開いたら、わんさか出てきました。不満は期待の裏返しだから、何も反応がないよりずっといい。一つずつひっくり返していけば上向きます。実際、1年で業績は戻り始めました」
 
その後はふたたびアメリカで活躍したが、東日本大震災を機に帰国。ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケア カンパニーに転職し、踊り場にあった事業の立て直しを任された。
 
ここでも不満大会を開いた。聞こえてきたのは、「製品力がない」「アキュビューはもう古い」「新製品がない」という声。社員がブランド愛をなくしたら本当に終わり──。海老原の改革は、そこからスタートした。

「ブランド力が弱くなった背景には、ポートフォリオや戦略が曖昧だったことがありました。アキュビューが圧倒的だった頃なら新製品のサブブランドを立たせて告知することが効果的でしたが、当時は逆に消費者を混乱させていた。そこで戦略の立て直しから始めました」
 
運営体制にも手をつけた。それまではタテ割り組織だったが、プロジェクト制を導入して、ファンクションの枠を超えてチームを組ませた。ノウフーで社内を活性化させることが狙いだ。
 
これらの施策が奏功して、赴任後3年目の2016年に売り上げが反転。そこからは順調に回復して、アキュビューも第二成長期に入りつつある。
 
もちろん立て直しただけで満足しているわけではない。海老原が次に目論んでいるのは、事業の再定義だ。

「コンタクトレンズが求められるのは目が悪くなってから。これから健康寿命を延ばしていくべきであることを考えると、子どもから大人まで予防を含めてトータルで目の健康を守る会社になる必要があります」

ここでもノウフーを生かす。

「眼科の先生を中心に、情報系の大学の先生や、投資家、社会起業家、ジャーナリスト……。いろいろな分野の方に話を聞いてアイデアを磨いていますから、楽しみにしていてください」

職種や立場は変われど同じ手法でイノベーションを起こせる。そんな自信を感じさせる笑みだった。


えびはら・いくこ◎1990年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。住友スリーエム(現スリーエム ジャパン)に技術職として入社。99年米本社に転籍。約60カ国にわたるグローバル戦略とその展開を担当。2013年ジョンソン・エンド・ジョンソン入社。16年より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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