日米の大学入試スキャンダル 「多様性」確保の内情

日米で大学入試のスキャンダルがマスコミをにぎわしている。

アメリカではヘッジファンドのオーナー、有名な女優などが、子供を有名大学に入学させるために巨額の賄賂を使ったというものである。

この賄賂は、まず入試コンサルタントに支払われ、それが、大学のサッカーコーチなど体育会系コーチに渡り、富裕層の子供たちがスポーツ選手の特別枠で入学できるように便宜が図られた、というものである。このスキャンダルは、大学がイェール大学など超一流校であること、親が著名人であること、金額が巨額(数千万円単位)であることから、大きな話題となっている。

日本では医科大学の入試の合否審査で、女性、浪人の受験生の点数を一律に減点していたことが明るみに出た。批判にさらされると同時に、過去の女性の受験生から訴訟が提起されている(医学部入試の件は2018年11月号の本コラムで書いた)。

超一流の選手を採用しようとするスポーツ特別枠のすべてが悪いわけではない。一芸に秀でた人を大学に入学させることは問題ない。大学は多様な人材を受け入れるべきだし、スポーツ選手の活躍は大学の「広告」にもなる。これはアメリカでも日本でも同じだ(日本では正月の箱根駅伝の出場校、アメリカでもアメリカン・フットボールの有力校は、メディアで大々的に宣伝をしてもらえる)。

スポーツ枠のなかで正当な入試審査が行われていて、そこにお金が絡まなければ問題ないはずだ。今回のアメリカの大学入試スキャンダルでは、子供たちが、高校で、入試特別枠のスポーツをしていたわけではないことから犯罪の証明は容易だった。

アメリカでは入学審査は、大学進学希望者を対象とした共通試験(SAT)の成績はもちろん、高校時代の学業成績、課外活動や社会奉仕、本人の提出するエッセーなど、総合評価によって行われている。そこに大学教員が関与することはほとんどない。入学審査の専門室(Admission Office)がこれを担当している。

日本では「AO入試」として一部でアメリカのシステムを輸入したことになっているが、実態は、通常の「教室での筆記入試の枠外」であれば、すべてAOと呼ぶようだ。専門の入試審査担当者がいるわけではなく、教員が駆り出されてやっている場合が多い。実態は似て非なるものである。
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文=伊藤隆敏 ILLUSTRATION BY BERND SCHIFFERDECKER

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