70歳で新分野に参入、元スキーコーチが考える「成功するリゾート」の作り方

ラグジュアリーリゾート「ヴァイスロイ・バリ」(Photo by James D. Morgan)


私が朝食を済ませると、オールデイダイニング「カスケード」のシェフ、ウォター・エガーモントさんが、ちょうど仕事を終えてやってきた。彼は「ここは、本当に働いていて、心地の良い場所だよ。オーナーの良い品質のものを提供するというヴィジョンにはとても共感できるんだ」と汗をぬぐいながら話す。

ヴァイスロイ・バリは家族経営で、シュロワツカさんのパートナーであるマーガレットさんと、息子のアンソニーさん、娘のアマンダさんの4人が経営陣だ。本社や投資家が外部にいるわけではないから、意思決定も早い。そして、「最上のものを」というコンセプトを具現化するために、妥協はしない。

そして、シュロワツカさんたちは、スタッフも含めて大きなファミリーと捉えているようだ。

「残業していると、『みんなが私のことを愛しているのはよくわかったから、早く帰って。家族が待っているよ』とシュロワツカさんは言うんです。私たちスタッフのことも、そしてその家族のことも、考えてくれている。彼の、良いものに対して妥協しない姿勢が好きですし、だから自信を持ってお客様に勧められる。働いていてとても楽しく、居心地の良い場所です」と日本人スタッフの細川利麻子さんも語る。

毎日でも食べたい料理を

すべてにおいて最上のものを。そんなコンセプトを料理でも具現化したのが、リゾート内に去年9月にオープンしたレストラン「アペリティフ」だ。9カ月の工期をかけて完成した建物は、現在60席で、1920年代から30年代にかけてのオランダ植民地時代をイメージしたインテリア。白を基調に、グレーをアクセントに使っている。

ハネムーナーの滞在も多い高級リゾートだけに、ドレスアップして、カクテルを楽しんでから食事をする。そんなゆったりとした時間を楽しんでもらうための、ドレスコードのあるロマンティックレストランという位置付けだ。

カクテルそのものも、バカルディ・レガシー・バーテンダーの世界大会で優勝した、世界No.1バーテンダー、ラン・ヴァン・オンヴァルさんが、このヴァイスロイ・バリのために特別にプロデュースしたものだ。

エレガントな店内は、マーガレットさんの設計だ。バリの人々は基本的にのんびりした気質で、些細なことにこだわらない土地柄。そんな背景もあり、マーガレットさんは、毎日工事現場を訪れては、自ら細かく指示を出していたという。



ゆったりと間隔をとって設えられた席からは、アペリティフのロゴの入った巨大なキッチンが見渡せる。シェフにとってキッチンとは、F1ドライバーにとってのレーシングマシーンのような存在だが、このキッチンは間違いなく最高級のものと言えるだろう。

訪れるゲストだけでなく、働くスタッフにも最上の環境を提供するのが、シュロワツカさん流なのだ。そして、「食」は、彼がいちばん大切にしているこだわりでもある。

「世界中の料理を食べてきたが、祖母のつくる料理が、いまでも一番おいしいと思う。どんなプロにもつくれない」と彼はいう。それは、そこに「思い出と絆」があるからだ。「私自身もこのリゾートの外のレストランに食べに行くことはある。だけれど、帰って来て、ここで食べるとやっぱりホッとする。そんな感覚を大切にしたい」

シェフのスキルはもちろん、サービス、食材、そういったものがすべて安定していることも、安心感に関わる大切な部分だ。また、それは彼自身が毎日でも食べたい、リアリティのある料理なのだ。
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文=仲山今日子

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