ドーム型のシアターに入場すると、薄暗い会場の最前列には、6つの特徴的なシートが置かれていた。美しい曲線を描くフォルムで、座面には金と銀の糸で織り上げた西陣織の光沢。まるで、無数の星々が輝く銀河のようだ。シートの上には、穏やかな表情でゆったりと寝転がり、天井に映し出された星空を眺める若いカップルや女性客の姿。ここは、2018年12月に東京・有楽町にオープンした「コニカミノルタプラネタリア TOKYO」。「銀河シート」と名付けられたその席で特別な時間を過ごそうと予約が殺到し、オープンから2か月半で、観客動員数は10万人を超えた。
「銀河シート」を製作したのは、プレミアム家具メーカーのミネルバ。従業員数わずか20人ながら、国内外の著名ブランドの企画・開発や、オーダーメイド品の製作、修復・修繕まで手がける職人集団だ。創業者の宮本茂紀は、デザイナーや建築家の想いを汲み取り、技術力を駆使して具現化する「家具モデラー」という職種を日本に持ち込んだ人物として知られている。宮内庁玉座の修復、国会議事堂の議席張り替えなど、国を代表する施設や文化財も支えてきた。「お客様の想いを形にすることは、ミネルバならではの強みなんです」と二代目社長の宮本しげるは話す。
黒子の存在から表舞台へ
第一線で活躍する父親の背中を見て育ったしげるが家業を選んだのは自然の選択だった。職人として約10年間、技術を磨き、設計や営業も経験。14年に会社を引き継いだ。ただ当初、胸中にあったのは不安。華々しい実績とは裏腹に、会社の事業モデルは転換期を迎えていた。多くの家具ブランドがOEM生産から自社生産に舵を切り始め、大口顧客からは数年後の契約終了を告げられた。「他者に頼るやり方ではいけない。そこで、自立したことをやろうと決めたんです」と宮本は言う。黒子に徹することはやめ、自社の価値を積極的に伝えていく方針に転換。自社ブランド「Kairos & M」を立ち上げた。