建築家がビッグデータ解析のプロ、MIT研究員に。吉村有司氏が「たまたま」つかんだキャリアシフト

吉村有司氏


──今、吉村さんは20年近く海外にいらっしゃいますよね? 何か心境の変化はありますか?

心境の変化というか、バルセロナへ来たばかりの頃は、割ときっちりとプランを決めて、そのプラン通りに動くということをしていた様な気がします。しかしある時期から、たまたま舞い込んできたものに乗っかったほうが面白いんじゃないかと、そう思う様になりました。

人間の頭で想像できることってたかが知れていて、僕が考え付くようなことなんて、長い人類の歴史の中においては、どっかの誰かがとっくの昔に考え付いていると思うんですね。もしそのアイデアが実現されてなかったとしたら、それは法律や何かしら他の諸力が働いて実現できなかったと考えるべきだと思います。それよりも、自分が全く考えてもなかったことがたまたま舞い込んできて、それに乗ったらいい結果が出る。これが僕の経験則なんです。


マサチューセッツ工科大学(MIT)

2005年にバルセロナ都市生態学庁に行った時にたまたまモビリティをやれと言われて、たまたまEUプロジェクトの担当になってブリュッセルに行かせてもらい、たまたまセンサーを作れと言われた。僕が15年くらい前に想像していたこととは全く違うスペシャリティを得たのですが、それが僕の可能性の幅を広げてくれました。そしてなにより、それが面白く、楽しかったんです。

──吉村さんのお話を伺っていると「たまたま」とか「偶然」が多いんですけど、Forbes読者は海外で働いてみたいと思っている人も多いと思うので、「こうやったら’たまたま’が向こうからやってくるよ」といったアドバイスがあれば。

日常生活の中で、常に想像力と創造力を磨くことでしょうか。「たまたま」が向こうからやってくる、その可能性を上げることは難しいと思うのですが、その「たまたま」があっちからやってきた時、それを自分の人生にどう活かすか、自分のキャリアをどう構築することが出来るかという想像力がないと、いざそれがやってきた時に選択が出来ません。

もしかしたらそれはセンスと言ってもいいかもしれません。その様なセンスというのは、各自がそれぞれの人生の中で見てきたもの、聞いてきたもの、学んできたものを通して、その人だけが感じることができるものです。それを基に人生を構築していくと、その人だけに可能なユニークな人生が送れるのではないでしょうか。


バルセロナのオフィスから見た風景

また、実際に現地に行ってみるのもいいんじゃないかと思います。概して日本のかたというのは非常に真面目な方が多いので、丹念に情報収集をされます。しかし日本で集めた情報と現地の情報は全く違います。現地に行ったら分かること、現地に行かないと分からないことって山ほどあります。ですので、真剣にヨーロッパでキャリアを積みたいと考えられているかたは、長期とは言わないですけど、2週間程度旅行をしてみるとか、その間に現地の情報を集めることが大事だと思います。


吉村有司◎愛知県生まれ、建築家。マサチューセッツ工科大学建築・都市計画学部研究員、ルーヴル美術館リサーチ・パートナー。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター勤務などを経て、2017年から現職。ポンペウファブラ大学情報通信工学部博士課程修了、「地中海ブログ」主宰。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、バルセロナ市バス路線変更計画など多数。近年は、クレジットカードの行動履歴を使った歩行者回遊分析手法の開発や、Bluetooth センサーを用いたルーヴル美術館来館者調査など、ビッグデータやAIを用いた歩行者分析の分野で世界的な注目を浴びる。※本経歴は2019年5月当時のものです。

文=クローデン葉子

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