建築家がビッグデータ解析のプロ、MIT研究員に。吉村有司氏が「たまたま」つかんだキャリアシフト

吉村有司氏

筆者は日本からシンガポール、そしてロンドンへと移住して今年で12年目になる。日本では総合商社・総合電機メーカーで海外畑を歩んでいたが、ロンドンに移住後は建築インテリアデザイナーに転身し、現在はデザイン会社を経営している。

平成の最後というタイミングで引退したメジャーリーグのイチローが会見の最後で、「アメリカでは外国人ですから。外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れた」と発言したのが心に沁みた在外邦人も多かったと思う。私もそのひとりだった。

自分の意思で飛び出したものの、異国で外国人として、自分は何者なのか、なぜこんなところにいるのか、これからどうしたいのか、日々向き合って暮らしている同胞の今までの歩みとこれからをふと聞いてみたくなったのが、このインタビューシリーズの動機である。

Forbes読者の皆さんには、海外に暮らして10年以上経ち、当初の興奮やハードルはとうに乗り越え、今の生活が日常となった人たちの心境・悩み・将来の計画などをお伝えする中で、何か感じるものがあれば、と願う。

第1回は、建築家、公官庁で都市計画、スタートアップを経てコンピューターサイエンス分野の研究者、と異分野を華麗にキャリアシフトし、現在はバルセロナとボストンを拠点にインターナショナルなプロジェクトで飛び回る吉村有司さんにお願いした。


──吉村さんは10年以上前からブログ(注:地中海ブログ)を執筆されてますよね? その頃からブログのファンなんです。私も南ヨーロッパが好きで、でもなかなか住むまでたどり着けずに今は北ヨーロッパにいるのですが、初めに吉村さんがバルセロナに移住される前、日本にいた頃のお話を伺えますか?

バルセロナに行く前は1年ほど、地元の設計事務所で働いていました。建築家というのは自分の事務所を持つことを目標にしている人が多いのですが、その前に10年くらい修行をしないといけないんです。だいたいみんな、自分の好きな建築家のところで修行をするんですけど、僕の場合、たまたまスペインの建築家が好きだったんです。

それでスペインの建築家に「働きたいんだけど」みたいな熱いメール(A4で3枚くらいの文章)を書いて送信したら、非常に簡単な一言だけの返信が「じゃあ来れば?」って返ってきたんです。いま思えば、体よく断られたのだと思うのですが、僕はそれをポジティブに受け止めて「歓迎してくれるんだ」と思って行くことにしました。

──日本人が海外で働こうとすると、まずビザの壁が立ちはだかると思うのですが、どうされたのですか?

最初は就労ビザが出ないから、彼がやっているマスターコースがあるから、そこに学生として通いながらインターンとして働くのはどうか、と提案してくれたんです。じゃあそうしようと思って準備していたのですが、渡航の2週間くらい前になって、急に彼の秘書からメールがきて、「急死しました」と。

「ええ!」と思ったんですけど、こっちも色々と準備を進めていたし、ビザも取ったし、住むところも決めていた。その人の学校と事務所はあったんですが、その人はいない。でも1年くらいは行ってみようかなと思って行ってみたんです。

そしたら思いのほか楽しかったんですよ。天気はいいし、ご飯は美味しいし、バルサ(FBバルセロナ)なんかもやっている。なにより街全体が楽しみに溢れていました。1年の予定だったんですが、もう1年いようかな、もう1年いようかな、と思ううちに15年も経ってしまいました。
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文=クローデン葉子

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