東京・徒歩・200kmのフィールドワークで発見、「区界」の不思議


3. 2020年東京五輪のマラソンコース、約45km

5月3日。表参道駅から国立競技場(建設中)まで歩いて移動し、そこからマラソンコースに沿って、外苑西通り、靖国通り、飯田橋、水道橋、神保町、神田、日本橋、水天宮前、浅草。雷門の前を通って、折り返し、中間地点の日本橋、ここまででちょうど半分だ。

5月4日。日本橋をスタートとして、銀座、芝公園。増上寺の前、東京タワーを臨みながら、折り返し、神田、神保町まで戻ったところで、南下して皇居に向かった。東京駅を左手に見ながら折り返し、水道橋、飯田橋、靖国通り、外苑西通り、そして国立競技場のゴールまで歩いた。

歩いてみて、「マラソンコースは東京観光のゴールデンルートである」という発見があった。東京ドーム、日本橋、銀座、浅草、東京タワー、皇居(折しも皇居での一般参賀が行われていた)を「観光客目線」で意識することはあまりなかった。このマラソンコースには、これらが見事なほど綺麗にひとつの導線上に載っていた。

家族と築地で寿司を食べ、後半コースに合流した息子とゴールしたあと、銭湯で湯に浸り、東京を観光している気分になった。観光地・東京を紹介するのにまさにうってつけのゴールデンルートである。

また、公式マラソンコースを、2日間、休憩や昼食をとりながら、延べ8時間弱かけて歩き抜けたことで、マラソンというスポーツが超人的であることを実感した。

何人かのマラソンランナーともすれ違った。連休のうちにコースを走ってみようという市井のランナーなのだろう。小学生でも知っている42.195kmという距離を実際に自分の足で歩くことで、この距離をたった2時間強で走り抜けるマラソントップ選手の強靭さをリアルに体感できた。この距離を歩けば、きっと、誰でもオリンピック競技に対する見方が変わる。

以上のルート以外には、目黒川沿い、東急世田谷線沿い、東京横断(浜町から日本橋、京橋、日比谷、霞が関、国会議事堂前、赤坂見附、青山、原宿、代々木上原)、多摩丘陵のハイキングコースなど、アプリで距離を計測しながら、そぞろに歩いた分が合計75kmに上ったため、最終日には、目標の200kmを達成することができた。



「あえて東京で」で再定義できたもの

これまで、僕は「ロンドンのおもちゃ屋を全部訪ねる」とか「パタヤ郊外のムエタイキャンプに籠ってフィジカルを鍛える」とか、数多のストイックな旅を思いついては、それらを実行してきた。

それぞれにエッジを効かせていたつもりの僕の旅。その共通項を敢えて見出すならば、「街をただ黙々と歩いてきた」ような気がする。ソウルを、バンコクを、ホーチミンを、ロンドンを、京都・大阪を、旅行中に歩いた距離は一日10kmをくだらないと思う。

道選びはざっくりだし、地名もちゃんとは覚えていない。そもそも旅先で歩いてきた理由をきちんと考えたことがない。強いて言うならば、自分の脚でしっかり都市の規模感を確認しながら、その街の外気や時間の流れに身体を晒していたい、だったろうか。

それを、今回はあえて東京でやってみた。実行に移し終えた今、静かな達成感がある。そして、思うこと。旅のフィールドは意外にも、わりあいごく身近にある。

「冒険」の概念を再定義した、そんな10日間だった。


松原徳和◎シンクタンク研究員。大学卒業後、NTT、国土庁(現・国土交通省)調査員を経て、社会公共、地方創生分野のリサーチ・コンサルティングに長年従事。また「メディア」を人文社会学の側面から再定義するために、東京大学大学院情報学環で研究を行う。 東洋大学非常勤講師(2017〜)、昭和女子大学非常勤講師(2019〜)。

構成=石井節子

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