平成に入って曲がり角の大学教育 東京集中を変えるカギ

その若い女性は清潔感あふれるセーラー服姿で、大学面接室の堅い椅子に腰かけていた。いかにも聡明そうな目線が印象的だ。夜間主入試の面接であった。私を含めた長崎大学の面接試験官は、彼女の正確で明瞭な回答ぶりと応募資料の中身にいぶかしさを感じていた。高校は県内有数の進学校、成績は常に学年5番以内をキープしている。昼間主であっても合格確実のレベルなのだ。

「できることなら昼間主に進みたい。でも2年前に父が亡くなり、母と私で生計を支えています。幼い弟妹もいて、私が働かないと生きていけないんです」。彼女が断トツの成績で夜間主に合格したことは言うまでもない。

平成に入ってからというもの、大学教育は大きな曲がり角にさしかかった。私学の経営は厳しさを増し、そのほぼ4割が定員割れ、さらに採算ラインといわれる定員充足率8割を下回る大学が毎年100校前後という惨状である。しかも国からの補助金は着実に減らされている。国の財政悪化は高等教育にも暗い影を落としているのだ。

現在、4年制大学の数は800校を上回ろうとしている。平成の初めには500校余りだった。大学進学率が高くなったからといっても、18歳人口が減少していくなかで大学は乱立し過ぎに見える。現に、この20年間の大学入学者数は、毎年60万人前後で増加していないのに、大学ばかり増えている。

注目しておくべき点は、この間に短大が250校以上も減っている事実である。実は、減った短大の多くが4年制大学に移行している。これらの「大学成り」の元短大が、勝ち組と負け組に分かれているのである。定員割れ大学の特徴のひとつは、学生規模500人以下の小規模大学、だが、その中にも成功しているケースは少なくない。

介護、看護、医療あるいは国際性やICTといった、時代に即応した小規模大学はかなり上首尾に運んでいる。また、少人数で地元の利を生かした美術系などの大学も順調だ。

反対に、総花的な分野を提供し、教員にも教育方法にもエッジが効いていない大学は苦しんでいる。良い意味での「タレント性」がなく、高校生を魅了できない大学が、18歳人口減少の試練をモロに受けているのである。
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