平成に入って曲がり角の大学教育 東京集中を変えるカギ


最も難儀な課題が地方問題、東京集中である。文部科学省は業を煮やして首都圏私大の定員抑制策に打って出た。超短期的、表面的にはこの施策が奏功するかのように見える。だが、残念ながら弥縫策だろう。むしろ、首都圏の有名大学の受験競争率が高まり、浪人生の増加と予備校のビジネスチャンス拡大につながるだけのような気がしている。

なぜか。これは人口の首都圏集中の理由と同根である。首都圏の最大の強みは、個々の人材が優秀である、というよりも、研究開発からB2Cに至るまで、優秀な人間のネットワークが広範囲かつ多層的に広がり、かつそれがグローバルに展開している点にある。いわば人材と人脈の集積回路なのである。

日々、日本全国の人材がここに参加しようと流入し、回路の集積度と一段の競争激化を促している。だから、高い付加価値と雇用機会を生み、それがまた人材を呼び込む、というプラスの連鎖を生んでいる。

首都圏に比べて、地方の人材ネットワーク集積度は明らかに脆弱であるし、範囲も狭い。そこに突如、最新鋭の研究設備と居住環境を整えて、年俸数億円のノーベル賞級の研究者を招請しても、あまり効果は望めない。

素晴らしい基礎研究も、それを応用し、実用化したうえで、事業採算に乗せる企画開発力、法人外交、資金調達、マーケティング、販売ネットワークの構築といった、一連の商流、金流がなければ画餅になりかねない。個々人の力量だけでネットワークに対抗することはできない。

地方大学問題も、地方におけるネットワークの拡充のなかで議論しないと意味がない。文科省がその裁量の中で、定員や補助金、学部学科への対応に奔走しても、しょせん、それはコップの中の空しい努力になりかねない。この課題は、地方創生という国家的テーマの全体像のなかで進めていかないと徒労に終わる。

夜間主面接から2年後だった。キャンパスで満開の桜の下を艶やかな女性が寄ってきた。件の夜間主生だ。「先生、ある財団の使い切り奨学金がもらえることになりました。母も再婚しましたし。あたし、4月から東京の大学に編入します。昼間主です。新宿でお会いしましょっ」


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役、南開大学客員教授を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新証券市場』など著書多数。

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