──会社も、人間同様に性格を持つ「生き物」と捉えることができると考えています。木下執行役員の話から、ヤマハ発動機の性格は、努力家でストイックという印象を持ちました。実際はどうなのでしょう?
総じて、ポジティブな人が多いですね(笑)。遊びの道具をつくってきた歴史から、ユーモアや余裕がある会社ではないかなと思います。ユニークな発言も許容できる度量があるというか。
さらには、自分の好きなことをやる傾向がありますね。自分のやりたいことを追求することがお客様の喜びに繋がると考えているので。その意味で、実は、私たち自身がヤマハ発動機のいちばんのファンなのかもしれません。
それと、自律に基づく自由があることも大きな特徴です。例えば、「これ、問題じゃないですか?」と発言する自由があると同時に、発言した人は自らの責任のもと、それを解決していくべきだと考えます。
責任を厳しく問うのかというと、必ずしもそういうことではない。上手くいかなくても、それが経験値として蓄積されるなら、本当の意味での失敗ではないのです。
──組織が大きくなると一人ひとりの可動領域が狭くなる感覚があるのですが、そこを取っ払い、むしろ爆発させているところが凄い。
私の経験上、良くも悪くも「放牧主義」だと思っています(笑)。相当非効率ではありますが、仕事を通じて、誰がどのように変態し、進化していくかを見守っています。
だから、私にできることは「場」や「経験」を提供すること。人を育てようと手取り足取り教えることは、かえって驕りのような気がします。
──新たな時代を切り拓こうとするヤマハ発動機において、木下執行役員がリーダーシップを取られていることに必然を感じました。
好きな言葉のひとつに「道楽」というのがあります。一般的に放蕩することを意味しますが、私的には、「オン・ザ・ウェイで楽しむ」という意味で使ってしまおうかなと。
本来、道楽は仏教用語に由来し、悟りを開いた後の楽しみや境地を意味する言葉です。そのニュアンスが私たちに合うと感じるのです。
快楽を「是」とし、それを追求するなかで、あるとき悟りが開ける。私たちの商品を通じて、そんな体験を提供できたら嬉しいですね。その点で、オートバイや楽器はとても良い「媒体」だと思っています。自己鍛錬が必要だけど、その先に圧倒的に鮮やかな世界が待っているので。
──道楽という言葉の使い方がこれからは変わるかもしれませんね。
そうですね。「道楽しようぜ!」と言うとなんだかワクワクしますし(笑)。
日本は勤勉が是とされがちですが、もう少し道楽にフィーチャーしても良いのかもしれません。私としては、そこで勝負するのがヤマハらしいと考えています。勤勉と道楽は表裏一体だし、わざわざ分ける必要もない。突き詰めると誰もが感動してくれる世界があるし、それは道楽にも言えることだと思うのです。
木下拓也◎1967年、福岡県生まれ。九州大学卒業後、1990年、ヤマハ発動機株式会社入社。以降、MC事業本部にてさまざまな役職を経て、2018年1月、MC事業本部長就任、同年3月、執行役員に就任する。
連載 : #醸し人
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