──ヤマハブランドとしては、楽器のヤマハも含めると、実に多様な商品を展開していますが、共通点はあるのでしょうか。
お客様に自己鍛錬を委ねるような「ストイックな遊び」を提供し続けてきたと考えています。ただ持っているだけでは、オートバイを乗りこなしたり、楽器を上手く演奏したりすることはできません。
一所懸命練習するうちに難しいカーブを曲がれるようになったり、演奏はもちろん、曲まで創れるようになったりする。そこで大きな達成感が得られますよね。すると、自分の持つ可能性に気がつき、さらなる自己鍛錬を重ねる。次第にその姿が、周囲に共感や感動をもたらすようになります。
──そこを履き違えて、誰でも簡単に弾けたり運転できたりする「技術先行型」の商品をつくっては、人からアートの感覚を奪うことになりかねませんね。
今後は、AIや自動化の市場規模が拡大することは確実だし、ヤマハ発動機としてもそれをやらないという選択肢はありません。ただし、あくまでもテクノロジーを駆使しながら、人々が潜在的に持つ力を引き出すことに注力していきたいのです。
テクノロジーにより省人化された時間で、自分の可能性を広げていって欲しい。たくさんの感動体験をして欲しいと願うからこそ、便利化することだけが、私たちの目的ではないのです。
常識から抜け出した先に広がる世界
──商品を手に取る一人ひとりとの関係性を大切にする「One to One Service」精神を貫くヤマハ発動機らしい考え方ですね。
最近、ある実証実験を行いました。オートバイに乗ったロボットと、世界チャンピオンのレーサーを競争させたのです。結果、ロボットが31秒差で負けましたが、ロボットのスピードが優っていた瞬間がありました。
それは、最終コーナーにある大きな壁を前にしたときで、人間は恐怖感ゆえにスピードを緩めるのですが、ロボットは全速力で走り抜けました。すなわち、世界チャンピオンであっても、もっとスピードを上げて、速く走ることができるということです。人間から常識や恐怖感を取り払った先には新たな可能性がある。それを学んだ実験でした。
プロでも、そうでなくとも、自己探求の意思がある限り、テクノロジーから学び、常識から抜け出すことができる場面はまだまだあるのだと感じました。
──4代目社長が、高級食材に固執するのでなく素材を工夫して美味しく料理し、心地よい環境で味わうというコンセプトで編み出された「エピキュリアン料理」に通じるものを感じます。牛肉を牛乳で煮てみようとか(笑)。一風変わったチャレンジから、思いも寄らない発見が得られることがあるということですね。
川上は、アートを身をもって体現している人間だったと言えるかもしれませんね。例えば、一般的に「マンボウ」は料理の素材にはならないけれど、それが美味しいかどうかは実際に食べないとわからない。今回の実験に関しても、普通はヒトとロボットを競争させたりはしないですよね(笑)。
でも、そんな遊び心やユーモアがあっても良いと思うのです。そこから新しいものが生まれる。