伊藤さんが危惧しているように駄菓子屋がこのまま日本中から消えてしまわないためにはどうしたらいいのだろう。僕は考え込んでしまった……。
例えばヨーロッパでは「貧困層向け無料レストラン」が注目されている。これはイタリアのミシュラン三ツ星レストラン「オステリア・フランチェスカーナ」の料理人マッシモ・ボットゥーラ氏が、2015年にミラノで開催された国際博覧会で集まったシェフとともに余った食材で料理をつくり、ホームレスや恵まれない人々に無料で提供したことに端を発する。その後、ミラノに貧しい人やホームレス向けのレストランを設立。来年にはナポリ、パリにも開業するそうだ。
もしくは東京・北参道のレストラン「シンシア」の石井真介シェフが中心となって進めている「Chefs for the Blue」。こちらはサステナブルシーフード(持続可能な漁業)を国内に広めようと、料理人30人、科学者、ジャーナリストが立ち上げた団体だ。マグロを例にとれば、太平洋にいる本マグロは50年間で3%までに減少した。彼らは限られた海の資源の捕り方、食べ方に警鐘を鳴らし、生産者と社会の声によって規制をかけようと活動している。
以前の料理人はおいしいものをつくることに命を懸けていた。いまはおいしい料理をつくるのは当たり前で、どのような社会的課題を自らの料理や立場で解決できるかを考える、志の高い人たちが非常に増えてきた。
これらの話と駄菓子屋の話を結びつけるのはあまりにも壮大すぎるかもしれないが、そのような志のある感覚で、子どもたちが食の尊さに気づくきっかけを駄菓子屋でつくってあげられたらいいなと思う。これからの未来を築くのは子どもたちなのだから──。
現代版・駄菓子屋をつくる
先日香港に行ったとき、あるショッピングモール内にSTEM教育(科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する言葉)を行うための「STEM Lab」があった。
香港では2015年からSTEM教育が活発で、そのラボにもSTEM教育のキットがあり、レゴの超高性能版みたいなキットを子どもたちが自由自在に組み立てていた。ユニークなのは、ショッピングモールのポイントを使いながらプログラミング学習ができるところ。親は子どもをラボに預け、その間に買い物を済ませることができる。
これを応用した駄菓子屋をショッピングモールにつくるのはどうだろう。イメージとしては、淡路屋主人の伊藤さんのように大人が子どもたちと交流しつつ、子どもが食の現場や仕組みを知ったり、クラスメイト以外の子どもと仲良くなったりする「現代版・駄菓子屋」。
子どもは親から溜まったポイントを受け取り、お菓子を選んで買う。大事なのは、与えられた予算(ポイント)で何をどう買うか。大人との一対一のやりとりでじっくり悩んだり、クレープのつくり方を学んだり、商売のイロハを教えてもらったりすると、非常に愉快な場所になるのではないかと思うのです。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都造形芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。