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2019.05.28

神戸の駄菓子屋から届いた一通のメール 子どもに夢の社交場を

イラストレーション=サイトウユウスケ

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第45回。神戸の駄菓子屋主人から来た一通のメール。筆者が店を訪れると、そこは自らの子ども時代を思い出す、夢の社交場だった……。


「企画」を仕事にしていると、会社のインフォメールには毎日のようになんらかの依頼メールが届く。

例えば「アートのプロジェクトを進めているのですが、弊社の事業は絶対御社と関わりがあると思うので、一度ご挨拶させてほしい」とか「飲食店を営む者ですが、本気でワクワクする会社にしたく、相談に乗っていただけませんか」というような、さまざまな依頼・要望・売り込みが寄せられるのだ。

普段は目を通したあとに、弊社スタッフに返信をしてもらうのだが、あるとき、心に残る内容のメールがあり、スタッフの返信後に自らも返信したことがある。それは神戸で淡路屋という駄菓子屋を営む女性からの、こんな内容だった。
 
──去年、ご近所の駄菓子屋が2軒閉店してしまいました。もう10年もしないうちに、日本中の町から駄菓子屋が消えてなくなってしまうのではないかと危惧しています。

駄菓子屋は10円のお菓子を消費税も貰わずに売るので、儲けは2円程度です。しかも、隙あらば万引きされます。そんな商売、誰も継いでくれません。また駄菓子屋には横の繋がりがなく、組合もありません。店を営む人のほとんどが高齢となり、それでもみなコツコツ頑張っています。

今後どうしたら駄菓子屋が生き残れるのか、よいアイデアをいただけたら嬉しいですが、かといってお支払いできる余裕があるわけでもなく……。ただ、いまの駄菓子屋の現状を知っていただくだけでもありがたいです──
 
僕は「仕事として受けることはできないけれど、いつか行ってみますね」という短い返信を送った。そして、先日の神戸出張の際に、店に寄ってみたのだった。

子どもの金銭感覚に寄り添う

神戸湾に面した和田岬にある淡路屋さんは、“駄菓子屋の鏡”みたいな素敵なお店だった。メールをくれた3代目店主の伊藤由紀さんは、所狭しと積まれる駄菓子を売りながら、その横でひとつ100円のミニクレープも焼いていた。店の奥のスペースには小さな机も並んでおり、子どもたちがボードゲームを楽しんでいた。
 
僕が早速「エッグ」を頼むと、伊藤さんはクレープの皮を熱々の鉄板で焼き、冷蔵庫から出したゆで卵をむいて刻み、マヨネーズであえて皮で包んでから「はい!」と手渡してくれた。こんな手間をかけて、おいしくて、100円。他にもコロッケ80円、オムそば焼き400円、シュガートースト100円、かき氷150円などのメニューが揃っている。

これはたぶん、仕入れ価格以上に、「これだったら子どもが買えるかな?」という、子どもの金銭感覚に寄り添った価格設定なのだろう。いまの時代、駄菓子屋を営んでいる人は、きっと儲けは二の次で、子どもたちの喜ぶ顔が見たくて続けている方が多いのではないだろうか。

僕はエッグを食べながら、自分の子ども時代を思い出した。自宅から車で約30分の場所に親戚の旅館があり、その斜め前に駄菓子屋があった。学校の区が違うので、そこで仲良くなった友達もいて、行くのが本当に楽しみだった。ちなみに思い出の駄菓子は、丸川製菓のフーセンガム「フィリックス」。味もさることながら、やはり当たりくじがついているところが毎回ドキドキして好きだった。
 
思えば、初めて金銭感覚を学んだり知らない大人に怒られたりするのは、駄菓子屋だった。現代のコンビニではこういうことはできない。そもそも子どもに対して大人が一対一でここまで丁寧に相対してくれるお店がいまあるだろうか?
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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