そこで民間から募る資金を使い、SIBを組成。年間4人の特別養子縁組が成立した場合、行政収支が約1700万円改善されるモデルを組み立てた。成果目標を達成すると、行政が出資者に成功報酬を支払う仕組みだ。
SIBがワンテーマなのに対して、Oファンドは課題が「地域」と広い。成果は雇用や地域貢献なので計測も難しいだろう。しかし、町を蘇らせるのだから、社会へのインパクトはSIBよりも大きい。IPOで得た巨万の富やキャピタルゲインをOファンドにまわせば、社会は大きく好循環する可能性がある。
町づくりに投資のロジックを取り入れる発想は、これまで日本にはほとんどなかった。「官」が行うと考えられていたからだ。投資のロジックを取り入れる際に必要なのが、認証システムやレイティングなどの指標だ。
「ワシントンDCやニュージャージー州のニューアークなどでは、自治体を評価するLEED for Citiesが採用されています」と言うのは、日本でLEEDの認証を行う一般社団法人グリーンビルディングジャパンの平松宏城共同代表理事である。
LEEDとは米非営利団体USGBCが開発した都市や建築の環境性能評価システムで、Leadership in Energy & Environmental Designの略称だ。住民の健康や経済状況、水や廃棄物など環境に関して、持続可能性を高めるための都市の現状を評価する指標である。
「雇用を創出しても、家賃が上昇してしまえば、地元住民が住みづらくなります。そのように多様性が損なわるところまでLEEDは評価します」(平松共同代表)
アマゾンが第二本社をニューヨーク市のクイーンズ地区に移転しようと計画したところ、地元住民が高所得者の流入による家賃の急騰を危惧。地元で反対運動が起きてアマゾンが計画を撤回したように、単に雇用が増えればいいというわけではない。
LEEDを用いた投資は「ESG投資の不動産版」と考えればわかりやすいだろう。
「荒んだ都市を公共サービスだけに任せても、何も変わりません。民間のノウハウを使って、どんなことを行うと町の再生に効果的か。何を目指すかはみんなが賛同した評価軸を使う。日本でも二子玉川の商業施設や千葉県柏市の柏の葉スマートシティなどLEEDの認証を取得する施設が増えてきています」(同)
イグジットは、「地域全員の幸せ」と言えるかもしれない。