新国立劇場が試みる「短いオペラの2本立て」は、新しい鑑賞の形となるか?

ジャンニ・スキッキ 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

新国立劇場(東京都)が2019年から、一幕もの2本立ての「ダブルビル」というオペラを始めました。オペラは、上演時間が長くて敷居が高いイメージもありますが、短めのプログラムは観客にとってどうなのでしょうか? 4月に上演された、ダブルビルの公開舞台稽古を取材し、識者に聞きました。

共通点もコントラストもある

新国立劇場の芸術監督は、世界的に活躍する指揮者・大野和士さん。レパートリーを広げるため、2019年から「ダブルビル」を1年おきに上演することになりました。今回は、ツェムリンスキー「フィレンツェの悲劇」と、プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」です。ただ並べて上演するだけでなく、意味付けがあるそうで、共通点は、

1. それぞれ上演時間が1時間ぐらい

2. 初演が1917年1918年と時期が近い

3. どちらも舞台がイタリア・フィレンツェ

ということです。

一方がドイツ語の悲劇で、一方はイタリア語の喜劇というコントラストもあります。作品が作られたころは、映画やミュージカルが出てきて、オペラも成熟した内容となっているそうです。指揮は、びわ湖ホール芸術監督・沼尻竜典さん、演出はイタリア育ちの粟国淳さんでした。

「ゆとり」が必要なオペラ鑑賞

筆者は以前、オペラやバレエの取材をしていたこともあり、劇場に足を運んでいました。そうした舞台の上演時間は、長いものが多く、特にワーグナーの4部作オペラ「ニーベルングの指輪」は、全て上演すると15時間かかる大作。1日に1部の上演を、何年かかけて見ました。

オペラは休憩を数回はさみ、ゆったり見るもので、時間的にも、集中力の面でも、ゆとりがないと楽しめません。

このダブルビルの公開舞台稽古は、本番の昼の部と同じ午後2時からのスタートで、休憩1回を含めて2時間半ぐらい。久しぶりにオペラを見に行きました。

ドイツ語の悲劇は、男女3人の愛憎物語で、重苦しい展開でした。日本語の字幕を見ながら、物語についていくのもエネルギーがいります。1時間ほどで完結なので、集中できました。

2本目のジャンニは、机の上を舞台にして、登場人物が小さくなり、引き出しに入ったり、ペンを担いだりと大騒ぎ。衣装もカラフルで、楽しい演出でした。ソプラノの名曲「私のお父さん」は、オペラが詳しくない人でも知っている旋律です。

重苦しい空気に浸った悲劇の次に見ると、喜劇の軽やかさが際立ち、すっとしました。

休憩は1回で、待ち疲れません。共通点も個性もある2演目に触れ、充実感を感じながら、ゆとりを持って帰れました。夜の部は7時からで、これぐらいの時間なら終演が遅くなりすぎないでしょう。
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文=なかのかおり

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